現代では一般に8月15日とその前後が「お盆」と呼ばれ、祖先の霊を祀る行事として定着しています。正式には仏教用語で「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と呼びますが、当然、多くの関連用語が俳句の季語として使われています。いずれも初秋の行事として扱われています。
まずは「盆用意」あるいは「盆支度」は、事前準備のこと。「盆路(ぼんみち)」あるいは「精霊路(しょうりょうみち)」などは、あらかじめ草を刈って霊が通りやすくすること。「盆花」は、供えるための花(萩、おみなえし、山百合など)を採ってくることです。
盆用意すべてととのひふと虚し 長谷川浪々子
盆路のそれぞと見ゆる岨の雲 水原秋櫻子
岨(そわ)は山の切り立った斜面、崖のこと
南無鵜川盆花ながれかはしけり 飯田蛇笏
そのものズバリの「盆」ですが、「魂祭(たままつり)」、「精霊祭」、「盂蘭盆」、「盆棚」、「真菰筵(まこむむしろ)」、「新盆」などなどたくさんの傍題が存在します。盆の期間に入ると、家々では盆花を飾り付けた盆棚を用意して祖先の霊を迎えます。今では仏壇を利用していることが多いのですが、実は仏壇はお盆の時は空なので空棚と呼ばれる。
数ならぬ身とな思ひそ魂祭 松尾芭蕉
あぢきなや幮の裾踏む魂祭 与謝蕪村
幮(ちゅう)はとばり、たれぬののことで蚊帳を意味する
御仏はさびしき盆とおぼすらん 小林一茶
盂蘭盆や無縁の墓に鳴く蛙 正岡子規
お盆の間に、存命中の一家の長老格の家族に、主として鯖、赤飯などを備え拝むことを「生御魂(いきみたま)」あるいは「生身魂」と呼びます。鯖は背開きにして塩漬けにした「刺鯖(さしさば)」、赤飯は蓮の葉に包んだことから「蓮の飯」が季語として使われます。
生身魂七十と申し達者なり 正岡子規
刺鯖や隣へやるも表向き 成田蒼虬
祖先の霊を迎えるために家の前で焚く火を「迎火」、「門火」、「魂迎え」などと呼びますが、集落全体で行う火焚きは「精霊火」あるいは「盆火」です。霊が乗って来るのが「茄子の馬」、「茄子の牛」、「瓜の馬」、「瓜の牛」、「迎馬」、「送馬」で、盆が終了すると「送り火」を焚き「送り盆」として用意した茄子、瓜などは川に流します。
迎火や焚いて誰待つ絽の羽織 夏目漱石
あけがたの風に倒るる瓜の馬 山田みずえ
送り火の名残の去年に似たるかな 中村汀女
ひとところ暗きを過ぐる踊りの輪 橋本多佳子
単にに踊と書いた場合は盆踊りを意味する
他にもたくさんありますが、キリが無いのでこのくらいにしておきます。季語を通して、日本の古くからの風習がわかります。中には廃れてしまったものもありますが、知識としては憶えておきたいものだと感じました。