2022年8月30日火曜日

俳句の勉強 29 鰯雲で四苦

投句する際与えられるテーマが「兼題」ですが、兼題に選ばれる言葉はたいてい季語。しかも、特殊な季語はめったに無く、いかにもその季節を象徴するようなものが選ばれることが多いようです。

そうなると、どうしてもその季語から連想される内容はありふれたものばかりになりやすく、当然似たり寄ったりの俳句しか思いつかない。選者の先生方は、そこをどうやって乗り切ってオリジナリティを押し出すのかを見ようということなんでしょうけど・・・


今回、チャレンジする兼題は「鰯雲」です。傍題としては「鱗雲」が使えます。

あー、いかにも秋ですよね。空を見上げると、細かい斑点状の薄い雲がきれいに並んでいる。その様が、鰯の群れや魚の鱗のように見えるので鰯雲と呼ばれるわけですが、正式には巻積雲(けんせきうん)と呼び、5000m以上の大変高い所に発生する秋を象徴する雲。

鰯雲が空に発生すると、鰯が豊漁になると言われたりもしますが、温暖前線や熱帯低気圧の接近によって出現するため、天気は下り坂となります。

鰯雲で連想することというと・・・もう、ほとんど「秋」以外には思いつかない。じゃあ、秋だったら、食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋等々が出てきます。

鰯を食べるとかだと、食べすぎ、肥るとか。スポーツは山ほどありますが、特に秋に特化したものは思いつかない。読書や芸術も、基本的には年中できるわけで、秋だからという特別な物はありません。せっかくですから、名人の句を探してみましょう。

鰯雲日和いよいよ定まりぬ 高濱虚子

虚子の句は、天気がはっきりしないなぁ、という内容で「明日は雨かな」というだけのもの。歳時記に例句として収載されているので名句なんでしょうけど、先に言った者勝ちみたいな印象です。天気に絡めたら、後の句は全部類想になってしまいます。

いわし雲大いなる瀬をさかのぼる 飯田蛇笏

「瀬」は川の早い流れ、あるいは浅瀬という意味。空の鰯雲が川面に写って、まるで遡っているように見える。あるいは、水面に立つ細かい波が鰯雲のように見えた、など人それぞれの想像力をかきたてる名句です。気を取り直して、あらためて作句。

鰯雲間に挟まるホームラン


ホームランを打ったら、高く上がり過ぎてボールが鰯雲の間に挟まって落ちてこない。まぁ、それほど悪くはないと思いますが、俳句としては直球すぎて、面白みには欠ける感じがします。いっそのこと、雲を突き抜けたらどうでしょぅか。

鰯雲抜けて飛び去るホームラン

大同小異で、内容が薄い事には変わりない。雲に届くくらい大きなホームランを打ったという以上の話にならない。選手の嬉しさとか球場の大歓声は聞こえてきそうですけど。

鰯雲は高い所に発生し、その高さは富士山よりもはるか上です。登山をしている(自分はしてませんけど)時に、もうじき頂上と思うとあとひと踏ん張りと気合が入るものです。一言で登山中で頂上が近いとわかる言葉は何だろう? というところからスタートです。「あと少し」とかを使うと、登山中は伝わらないし、上句を全部使い尽くしてしまいます。

稜登り峰より高き鰯雲

頂上に向かう切り立った最後の難関を稜線と呼びますので、「稜を上る」とすればゴールが近いという情景が浮かんできます。ゴールの頂上を見上げたら、それよりももっと高い所に鰯雲がある。まだまだ気を抜けないという感じが出ましたでしょうか。最終候補にキープしておきます。