2024年2月12日月曜日

PHEVへの道 33 あらためて車のエコロジー


度々書いてきましたが、世界が電気自動車(BEV)一辺倒に向かっていた情勢が、昨年あたりから潮目が変わってきました。そのあたりを少し詳しく考えてみます。

そもそも、BEVにシフトしようという大前提となっていたのが環境性能の改善、つまりCO2排出量の削減が求められたと言うこと。近年、地球温暖化という大問題が叫ばれ、その原因の一つに主として化石燃料を利用したさまざまな近代化の中で大気中のCO2が増加していることが原因の一つと考えられるようになったわけです。

化石燃料、つまりガソリンを大量に消費している物の代表が自動車。カーボン・ニュートラルが求められ、その一つの回答としてハイブリッド車が登場し、そしてその先に内燃機関を排除して電気だけで走るBEVが正解と言われるようになりました。

ハイブリッド車技術で抜きん出たトヨタに対抗して、ヨーロッパではディーゼル・エンジンでCO2削減を実現しようとしたのですが、VW社のデータ捏造により頓挫。政府が後押しして、BEVへ一気にシフトしました。そこにうまく乗っかり世界のBEV市場の覇者になっているのがアメリカのテスラ社です。これらの政治的な動きは、明らかに「打倒トヨタ」という意思がベースにあることは間違いありません。

2010年代なかば以降、世界では、法律でガソリン車販売を禁止する動きが加速します。2025年までとしたのがノルウェイ。2030年までがスウェーデン、オランダ、アイルランド、イスラエル。2035年までがドイツ、イギリス、アメリカ、カナダ、中国。2040年までがフランス、スペインと言った具合。中国以外はHEV、PHEVも禁止です。日本は、メーカー側から「2050年カーボン・ニュートラル」が表明され、ガソリン単独で動く車は新規に登場しないとされています。

しかし、このBEVシフトに水を差すさまざまな話題が出るようになったのが昨年の事。

まず、根本的な話で「車のカーボン・ニュートラルだけではそもそも温暖化は解決しない」という話。空気に含まれるものは、78%が窒素、21%が酸素です。残りは1%で、大部分は0.9%のアルゴン。二酸化炭素はわずかに0.04%にすぎません。ただしCO2が最も温暖化に関与することは科学的に間違いが無いところです。

環境問題に厳しい「Greenpiece」の訴えとして、「世界の全CO2の約20%が、交通や運輸から排出され、乗用車はその45%を占める」というのがあります。つまりすべての乗用車がBEVになった場合に、空気中の0.04%のCO2の、さらに20%の、さらに45%が削減できるということ。それは空気中のCO2のわずか0.0036%にすぎませんので、名だたる科学者がそれで温暖化を防ぐことはできないと表明するようになりましたが、それが真実かどうかは今後の議論が待たれます。

いくら車が走ってCO2を出さなくても、大量のバッテリーを作るためには多くのCO2を排出する工場の稼働が必要であり、そもそも充電するための電気を作るのにも大量のCO2が排出されているという現実があります。また一定期間使用して劣化したバッテリーのリサイクル方法も確立されていません。日産などは一定の試みを始めているものの、テスラ社はそれに対しての対策は皆無と言われています。

現実にある程度の普及が進んだ欧米では、「新し物好き」の人々(Early Adapter)が先を争って手を出したのが一巡して販売の勢いが低下し、それらのユーザーからも様々な不満が聞こえるようになりました。充電時間が長い、充電スポットの不足、寒冷気候による性能の明らかな劣化、重量増によるタイヤ・道路の摩耗、故障した場合の高額な修理代などなど。

各国が政府を挙げてEV補助金などで推進したものの、その結果として中国勢の大躍進を招いたことは、特にアメリカにとっては大誤算だったのではないでしょうか。昨年は、ついにテスラは中国のBYDに販売台数で抜かれてしまいました。その結果、テスラの相次ぐ値下げが始まり、欧米中古車会社は修理代が高くつき、価格低下により販売償却ができなくなって来たテスラ車を排除し始めています。

日本と違ってアメリカの自動車販売方法は、ディーラーがたくさんの在庫車を並べて、客がその場で選んで買っていくというもの。ディーラーはBEVの在庫のだぶつきが顕著となり経営を圧迫するため、しだいにBEVから距離を取るようになっており、代ってハイブリッド車の売り上げが伸びてきているのが現実です。

これらの観点から、BEVシフトを強行してきたEU(欧州連合)は、再生可能エネルギー由来の水素とCO2から作られる合成燃料(e-Fuel)を使うエンジン車の新車販売を2035年以後も容認すると態度を軟化させています。e-Fuelは、化石燃料を使用せず、原料としてCO2を消費することで環境負荷を軽減できると考えられています。イギリスは、もともと2030年としていたガソリン車新車販売禁止の期限を2035年に延ばしました。

とは言っても、いずれにしても化石燃料は有限であり、いつまでもそこに頼った生活様式が続くことはありえません。確かに自動車に関連したCO2排出は微々たるものかもしれませんが、誰でも出来る対策の一つとして少なくとも無駄と言い切ることはできません。しかし、トヨタがカーボン・ニュートラルの切り札と考えている水素燃料車は、インフラ整備の観点からもかなり現時点では難しい選択となります。

将来の予想図としてBEV、あるいはFCVが当然街中にあふれている状況が理想だとは思いますが、それすらも最終的な正解ではないかもしれません。しかし、現時点ではBEVがこれまでの自動車に取って代わるには上位互換であることが絶対条件だと思うので、ガソリン車とBEVの両方の良いところどり(両車の欠点を補完)のハイブリッド車、できればプラグイン・ハイブリッド車が、今後少なくとも5年間くらいは最良の選択であると思います。