2025年3月24日月曜日
浅草キッド (2021)
お笑い芸人の劇団ひとりの監督第2作で、ビートたけしの自伝的小説を原作に脚本も劇団ひとりが担当しています。制作はNetflixで配信のみで視聴となっていて、現在までDVDなどは発売されていません(中国製の怪しげなものは出回っています)。
ビートたけし、北野武は大学を早々に退学して1972年に浅草フランス座の見習いとして楽屋で寝泊まりするようになります。当時の浅草フランス座は、基本はストリップ劇場で、踊りの合間にコントを上演していました。ここから有名になった者には、渥美清、東八郎、コント55号などもいましたが、「浅草の師匠」と呼ばれた芸人、深見千三郎が経営も担っていました。
深見は古いタイプの舞台一筋の芸人でテレビに背を向けていたため、ほとんど世間に知られることはありませんでしたが、人を笑わせることには秀でていて、誰もが一目置く存在であったと言われています。
フランス座でエレベータボーイの仕事についたタケシ(柳楽優弥)は、深見千三郎(大泉洋)のコントに憧れ、弟子入りを志願します。深見は何も芸を持っていないタケシにタップダンスを教えますが、それ以来ずっと真剣にタップの練習をしているタケシを見て弟子入りを許可するのです。
踊り子のチハル(門脇麦)は、実は歌手志望でしたが流れに流れてストリップをしていました。それでも舞台が終わった後に、一人で歌の練習をしているところをタケシに見られて話をするようになります。チハルは、「あんたはこれから始まるんだからいいよね」と言うのでした。
深見はふだんの生活の中でも、すぐにボケ倒すことを修行として、「客に笑われるんじゃない、笑わすんだ」と教え込みます。タケシは、少しずつ舞台にも立たせてもらうようになり、深見も陰でタケシの才能を認めるようになっていきました。しかし、テレビが普及するにつれフランス座の経営は悪化し、深見の妻で踊り子の麻里(鈴木保奈美)は芸者としても働き続けついに体を壊してしまいます。
舞台が先細りなのに対して、テレビの漫才がどんどん人気になっているのを見て、タケシはついに先にフランス座を辞めたキヨシ(土屋伸之)の誘いで二人で漫才をするため深見の元を辞すのでした。
初めは普通の漫才で目立ちませんでしたが、ツービートに改名して毒舌漫才を始めてからはどんどん人気者になり、10年かけてついにテレビの漫才大会で優勝するまでになります。タケシは優勝した夜、フランス座を手放し、麻里を亡くして、工場で働くようになっていた深みを訪ねます。賞金をそのまま深見に「小遣いです」と言って渡すのでした。
まず冒頭、度肝を抜かれるのは特殊メイクでビートたけしになりきった柳楽の演技。そこまで似せるためのコーチは松村邦洋というのが面白い。一気に何が始まるんだろうという興味を沸かせるのに十分なんですが、ちょっと間違うと柳楽タケシの違和感も作るかもしれないという、けっこう劇団ひとりが賭けに出ているようなところがあります。
ただ、劇団ひとりのビートたけし、そして深見千三郎に対する強いリスペクトは全体に満ち溢れていて、実にていねいに練られた展開であることに拍手を送りたい。
1作目でも主役を演じた大泉洋は、深見の人物像があまり知られていないので柳楽よりは演じやすかったかもしれませんが、大泉らしさもありながら頑で不器用な昭和の芸人を実に見事に演じました。それにしても、前作の手品にしても、今回のタップダンスにしても大泉洋は劇団ひとりからずいぶんと高度な要求をされても、ちゃんとこなす所がすごい。
劇団ひとりは、映画監督としてはまだ2作だけですが、いずれも自分のテリトリーの中で作っているので、俳優、特に大泉洋のおかげで映画として成立させている感じはありますが、違う角度からの映画が作れれば今後が楽しみかもしれません。