三崎亜記による絶賛されたデヴュー小説が原作。「舟を編む」の渡辺謙作が脚本・監督を務めています。いろいろなレヴューでは評価が高いとは言えない作品なんですが、となり町同士がある日、突然戦争を行うという不思議なプロットに惹かれました。
北原修路(江口洋介)は、舞浜町に住み、隣の森見町を通って自動車通勤をして旅行代理店に勤めています。ある日、舞浜町と森見町が互いに宣戦布告をして戦争が始まったという小さな新聞記事を見ます。そして北原の携帯電話に舞浜町役場の香西瑞希(原田知世)から連絡があり、辞令交付式に出席するように言われます。
香西はとなり町戦争推進室に所属し、訳がわからないまま辞令を受けた北原に、通勤途中で見聞きしたことを逐一秘密裏に報告する仕事だと説明します。しかし、町の様子に変わったところは無く、人々は普段通りに生活しているように見えるのでした。しかし、町の広報には着実に戦死者の人数が記載されているのです。
開戦して何日かして、呼び出された北原は、香西から積極的に森見町の偵察任務にあたるように言われます。そして、そのために香西と偽装結婚して森見町のアパートで同居することになります。敵地に潜入することは協定違反にあたり、見つかった場合は舞浜町としては知らないで押し通すらしい。
香西の弟の香西智希(瑛太)は戦争には反対の立場ですが、町を愛する気持ちには変わりなく、最前線で活動するため志願兵となるのです。北原の会社の同僚も、先頭に巻き込まれ亡くなります。上司の田尻(岩松了)はかつて外国で傭兵として働いていた経験から、森見町に志願して会社に来なくなります。
北原は一途に業務を行う香西に次第に惹かれていくのですが、実際の戦闘を目にするわけでもなく、そもそもこの戦争の目的もわからないままの日々を過ごすのでした。しかし、ある日のこと、香西から電話があり、潜入していた証拠になる書類を持って、アパートからすぐに脱出するように言われます。
用水路にたどり着くと、暗闇の中に自分を捜索している様子の人物がいることに気がつき、別の下水道をを舞浜町に向かいますが、途中で香西智希に助けられ、なんとか町の境界線を越えることができました。智希は、まだ無断で越境した一般人を保護する任務があると言って、再び下水道の方へ戻っていきました。
北原は舞浜町に向かおうとしたとき、背後で銃声を聞きます。そして、再び境界線を一歩超えた時、いきなり田尻に襲われるのです。
この映画がつまらないと思う人は、基本的に「なんで戦争なんだ」という根源的な説明が無いことに不満があるのかもしれません。そのために、戦争だからと町のために献身的に働く香西の心情が理解できないのです。ですから登場人物に感情移入できないという、映画を見る上で重要なポイントが欠けているということ。
しかし、これは映画を見ている者を北原と同じ状況に置くための巧妙な仕掛けであり、戦争になると一般人も理由も知らされないまま歯車の一つに組み込まれ、親しい人も失い、自分の様々な感情も狂っていくということ。戦闘そのもの描くのではなく、その裏で人々が物理的・精神的に多大な影響を被る様を凝縮して見せているのだと思います。
ただし、後半、北原と香西の恋愛要素が強まるところは、戦争であっても失いたくない物があるということに繋げたいのかもしれませんが、やや本命のテーマから逸脱してしまった感が残念なところ。原作未読ですが、映画的に膨らませたところのようです。
全体としては、多少のモヤモヤが残りますが、原田知世の透明感に支えられて比較的良い出来の映画と感じました。