2025年3月12日水曜日

こんにちは、母さん (2023)

永井愛の舞台作品を、「男はつらいよ」の山田洋次が監督・脚本を担当し、「母べえ(2008)」、「母と暮らせば(2015)」に続く吉永小百合を迎えた「母三部作」という位置づけの作品です。いかにも山田監督らしい東京の下町を舞台に、母、息子、そして孫という3世代の抱える悩みを描いています。

隅田川沿いの向島で細々と足袋屋を営む神崎福江(吉永小百合)は、近所の人たちとホームレス支援のボランティア活動を行っていました。頑固だった足袋職人の父親との折り合いが悪く早々に家を出た息子の神崎昭夫(大泉洋)は、企業の人事部長でリストラにも関わるストレスの高い立場で、妻とも別居中という悩みも抱えています。

たまたま久しぶりに昭夫は実家訪ねると、娘の舞(永野芽郁)が母親のもとから飛び出して福江の元に居ついていました。昭夫は舞から、福江はボランティア仲間の牧師をしている萩生(寺田聰)のことが好きなんだと思うと聞かされ驚きます。

そして同期入社の友人、木部(宮藤官九郎)がやって来て、自分がリストラ対象だということを何故黙っていたと昭夫に詰め寄るのです。昭夫は立場上言えなかったが、できるだけ木部が会社に残れるように動いていたと説明しますが、木部は聞く耳を持たず「絶交だ」と言い捨てて出て行ってしまいます。福江は何とかしてあげるのがともだちだろと言いますが、昭夫は組織の中では簡単なことではないというしかありませんでした。

萩生にコンサートを誘われた福江は、久しぶりの楽しい一時を過ごしますが、その後で萩生から「実は、北海道の教会に転勤になる。他の人から聞くのではなく、自分の口からあなたに話したかった」と伝えられるのです。一方、希望退職を拒否した木部は閑職に追いやられ、会議に無理矢理出ようとして上司にケガをさせてしまい懲戒解雇になることが決まってしまいます。

昭夫は離婚を決意し、木部の事も人事部長決済で通常の退職として処理するのでした。役員会での決定事項を独断で無視した昭夫は、責任を取って会社を去るしかありませんでした。実家に戻ると、「失恋」した福江は珍しく一人で酒を飲んでいました・・・

福江は亡き夫が残した足袋屋を守らないといけないしがらみを背負い続けています。ボランティアも、ある意味福江にとっては自由への憧れだったのかもしれません。昭夫は妻との関係が崩れ、会社と友人の板挟みになってしまう。舞は両親の間で入って悩み、福江の元に逃避している。

現代を舞台にしていますが、どの時代でも、どの世代でもそれぞれの悩みを抱えて人が生きていること。そして母と息子、父と娘といった、山田監督がずっとテーマに掲げてきた「家族」の在り方を描いた作品ということだと思います。それをどう感じ取るかは、人によって様々だとは思いますが、少なくともいろいろな不平不満も受け入れてくれるのが家族という関係なのかなと思いました。

にぎやかな大泉が、落ち着いた演技をするのも見所で、ハイテンションの宮藤官九郎が対照的に演出されています。ちょっと気になったのは、ホームレスのイノさん(田中泯)の存在。物語の中で、役割がよくわかりませんでした。せっかくの大物登場なんですが、もう少し深い関りが描けてもよかったかもしれません。

それしても、娘、母親を通り越して"大スター"吉永小百合をお婆さんにしてしまったのは、さすが山田監督。しかも老いらくの恋をさせて振られてしまうという、こんな吉永小百合は見たくないと思うか、人間らしさが前面に出て好感を持つか、あなたはどっち?