大林宜彦。昭和13年、広島県尾道にて代々医家を営む家庭に生まれ、こどもの時からたくさんの映画を見て、自らも映写機や8mmカメラなどにおもちゃ代わりに親しみます。
大人になって上京すると、自主制作で映画を作り始め、CM製作の仕事に就きます。いろいろフィルム素材からいじることが好きだった大林は、1977年に「HOUSE」で商業映画監督としてデヴューし、実写やアニメをいろいろと合成し、まったく新しいワンダーランドに多くの人が驚かされました。
特に尾道三部作、新尾道三部作などで故郷の尾道を舞台にした映像作品の数々は、撮影場所の「聖地巡礼」という現象を引き起こし、撮影地の観光資源の一つとして重要な役割を果たすようになったことは特筆すべき功績です。
この本は、大林監督が自ら語り下ろした内容をまとめたもの。2020年に亡くなったため、遺作となった「海辺の映画館」だけは、妻で全作品のプロデュースに関わった大林恭子氏が解説しています。
映画評論の本はいろいろありますが、第三者が書いたものは評論家の主観であって、必ずしも作り手の意図を正確にとらえていない場合はかなりあります。そういう意味で、監督が自ら語る製作の裏話や俳優たちとのやり取りなどの話は、映画を理解する上でこれ以上は無い優れた資料となります。
大林監督がこのような本を残してくれたのは、自分の死期を悟ったところもあるかもしれませんが、やはり作るだけでなく見る側としても大の映画ファンだったのだろうと想像します。
この本の画期的なところは、約760ページがかなり小さなフォントで埋まっていて、中身の濃厚さは他に類を見ない・・・にも関わらず、何と定価が3200円という、驚くべき低価格であるというところ。とにかく手に取ってほしい、是非読んでもらいたいという、発行した立冬舎の心意気を感じます。
全作品を見るつもりは無いという方でも、一つでも大林作品が好きならば手に取る価値は十二分にあると思います。