2025年3月11日火曜日

ディア・ファミリー (2024)

清武英利のノンフィクション「アトムの心臓 ディア・ファミリー 23年間の記録」が原作で、東海メディカルプロダクツの会長筒井宣政氏が、医学知識の無い所から娘のために人工心臓を研究・開発しようとした実話が基になっています。監督は月川翔、脚本は林民夫、主題歌はMrs.Green Appleが歌っています。

町工場を経営している坪井宣政(大泉洋)は、妻の陽子(菅野美穂)、長女の奈美(川栄李奈)、次女の佳美(福本莉子)、三女の寿美(新井美羽)の5人暮らし。しかし、心臓疾患を抱える佳美は幼い頃に20歳まで生きられないだろうと宣告されていました。佳美中心の生活に、奈美も寿美も文句も言わず協力的でしたが、家族としての楽しみには多くの制約が伴っていました。

アメリカで人工心臓が開発されたニュースを聞いた宣政は、佳美を救える望みを抱き、大学や研究室を巡って情報を集め出すのです。東京都市医科大学心臓研究所を訪れた時、自分の工作の知識が人工心臓の開発に応用できると感じた宣政は、貯えてきた私財を投げうって研究所に協力して人工心臓の開発を始めます。

しかし、アメリカでの臨床試験が失敗したことを受けて、それまで協力的だった石黒教授(光石研)は、態度を変え宣政の出入りを禁止してしまいます。絶望する宣政は佳美に「絶対に助ける」という約束を守れないかもしれないと告げるのですが、自分の隣に入院していた少女が亡くなったことで、バルーンカテーテルさえあれば助けられたことを伝え、自分の代わりに多くの命を救ってほしいと言うのでした。

当時は心臓カテーテルで用いられるバルーンカテーテルは輸入した物しかなく日本人の体格には適合せず成功率はかなり低かったのです。人工心臓には否定的だった研究室の富岡(松村北斗)は、宣政の熱意にうたれ日本人のためのカテーテル製作に協力するのでした。

実話をもとにしていますので、感動することは間違いない。佳美はカテーテルでは自分が助からないことをわかった上で、父親の必死の努力が報われる方向に導くのは並大抵の心の持ち主ではありません。何とか成人式は祝うことが出来ましたが、その後に亡くなってしまいます。しかし、現実に宣政が開発したバルーンカテーテルは多くの患者の命を救うことに繋がったのです。

映画では、おそらくドラマ的なフィクションは混ざっているのではないかと思いますが、大筋は実話通り。そのまま映像化すると、かなりベタな展開になってしまいそうですが、そのあたりは脚本の上手さのせいか素直に見ることができました。

ただし、宣政が功績をたたえられ叙勲する場面で、宣政を積極的に取材する女性記者(有村架純)が登場してくるところだけは、やや不必要な付け足しに感じられます。このシーンがあるために、宣政が佳美を救えなかった後悔を和らげようとしているのだと思いますが、感動の上乗せになっているかもしれません。