塩田武士による小説が原作ですが、もともと大泉洋をイメージして当て書きされた物。これを「桐島、部活やめるってよ(2012)」の吉田大八が監督しました。大泉洋自身は、自分に当て書きされたわりには一番自分らしくない作品と言っていますが、出版業界の今を描いたスリリングな映画になっています。
出版大手の薫風社が発光する文芸誌「薫風」は、日本文学界にとっても重要な役割を果たしてきましたが、昨今の本が売れず本屋も減っている状況では苦戦を強いられていました。薫風社の社長(山本學)が病死して、後継者と思われていた息子の惟高(中村倫也)は実力者の新社長の東松(佐藤浩市)によってアメリカに飛ばされてしまいます。薫風を守る編集長の江波(木村佳乃)とその後ろ盾になっている常務の宮藤(佐野史郎)は、抵抗しますが東松は薫風を月刊から季刊に変更してしまいます。
最近、薫風社のカルチャー雑誌「トリニティ」の編集長に迎えられた速水(大泉洋)は、東松からトリニティも廃刊候補と言われ、まず薫風の大御所作家である二階堂(國村隼)に自身が生き残るためにトリニティに連載するマンガの原作を書かせることに成功します。
そして、薫風から外された高野(松岡茉優)を自分の編集部に向かい入れます。高野は本屋の娘で、本当に良い本を真に理解している人材で、薫風では却下された新人の矢代聖(宮沢氷魚)の小説を高く評価していました。速水は、矢代の小説もトリニティで利用していくことにします。
また以前にジョージ真崎というペンネームで面白いエッセイを書く人物が、実は人気モデルでガンマニアの城島咲(池田エライザ)であることをつきとめた速水は、咲を表紙の顔にしてエッセイを連載することにします。
高野は20年来筆を折り行方不明になっている幻の作家、神座(リリー・フランキー)に注目し、最後の作品の原稿を細かく調べ上げます。そこから、ある飛行場でセスナを所有していることを推察し現地に向かいますが、丁度離陸するところで直接会うことに失敗します。
咲はストーカー被害にあっていてましたが、いよいよトリニティが発行される直前についに直接ナイフを向けられてしまいます。咲はとっさに持っていた改造銃で発砲してしまい、警察に逮捕されてしまうのです。速水はたとえ広告が無くなっても、咲への同情も手伝って必ず発行部数が増えて赤字にはならないと東松を説得し、予想通りの売り上げ増に成功します。
宮藤と江波は、トリニティに奪われた矢代を説得し薫風に鞍替えさせますが、その発表の記者会見で、矢代は実は自分は作者ではなく行方不明の友人の作品であることを暴露してしまいます。責任を追及された宮藤は取締役から外され、ついに薫風は休刊が決定してしまうのでした。
確かにユーモアはほとんど無いので、大泉洋らしくないと言えばそうかもしれません。登場人物が何かしら誰かを騙しているというところはありますが、大泉洋が演じる速水がその中心にいて、だからと言って悪者にはなりきれていないあたりは、らしいと言えばらしい点かもしれません。
矢代、咲、神座という3人のエピソードがバラバラのようで最後につながっていくあたりはなかなか面白い構成なんですが、謎を作り出している速水と、謎を追いかける高野の存在によって、やや話が複化していることが難点になっているかもしれません。2時間弱の映画ですが、あと30分くらいは長くても良いと思います。
それにしても、出版業界の苦境は明快に示されていて、関係する仕事に就いてる方には耳の痛い話になっています。ネット社会になって、文字を粗末に扱うようになったというのは実感するところで、時代と共に文化も変化していくのは必然だと思いますが、コミュニケーション手段として重要なところなので、ネット社会が取って代わるのではなく上位互換となってもらいたいものだと感じています。