2009年6月7日日曜日

Sigiswald Kuijken / J.S.Bach Cello Suites

チェロという楽器はヴァイオリンみたいな形をした弦楽器で、膝と膝の間に挟んで演奏するわけです。コントラバスより小さく、ヴィオラよりは大きい。

ところが、今のような形態となったのは、18世紀末からのようで、昔はどうも違うみたい。バッハの頃にはヴァイオリンのように持って、肩や胸で支えて演奏していたらしく、モーツァルトの時代になって床に置いて弾くようになったというのです。

ということは、今は主に低音のパートを受け持つため、ボディを大きくして反響しやすくしているわけですが、この大きさではとても手持ちでは演奏していられません。つまり昔はだいぶ小さかったんだろうなと、容易に想像できるわけです。

クラシック音楽の世界は通常現代楽器で演奏するわけですが、作曲者の時代の音にできるだけ忠実に近づけたいと考えている演奏家がいます。そういう人たちが使う楽器が古楽器。ピアノなら、モーツァルトを弾くならフォルテピアノかクラヴィアコードでないとと考えている。バッハをモダン・ピアノで弾くなんてもってのほか。カラヤンとベルリン・フィルの大迫力超弩級オーケストラなんてくそくらえ。

まぁ、そこまでいかないにしても、古楽器信奉者はかなりこだわりを持った人たちであることは間違いありません。クイケンというヴァイオリン奏者も、そんな一人で古楽器界を鍵盤楽器奏者のレオンハルトとともに支えているわけです。

そこで、バッハの時代には今のようなチェロは無かったわけですから、無伴奏チェロ組曲を再現するために当時存在していただろうショルダー・チェロ(ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ)を復元しちゃったというわけです。

実際のCD発売は弟子の日本人奏者寺神戸亮に先を越されてしまいました(2008年2月録音、6月発売)が、クイケンは2004年に楽器完成直後から精力的に使用して、2007年についに無伴奏チェロ組曲を録音、そして2009年になってやっと発売になりました寺神戸氏のブログに解説があります。

正直に言って、自分の場合はあまり古楽器というものにはこだわりはありません。いくら楽器だけ、あるいは奏法を古めかしくしたって、バッハの時代の空気が戻ってくるわけではないので、モダン楽器でも良い音楽の価値は変わるものではないと思っています。

じゃあ、この演奏はどうなのかというと、けっこういけているのです。楽器が小振りになってチェロの音の厚みが失われるのではないかと最初は考えたのですが、意外や意外。確かに低音はやや貧弱な感じは否めませんが、その分を十分すぎる共鳴で補っているようで、ほとんど違和感を感じません。

逆に言うと、これだけの響きを手持ち楽器で出すためには相当な腕力というか、体力が必要なのではないでしょうか。たぶん弓の弾き方一つで相当音が変わってしまうんでしょうから、特に早いパッセージではさぞかし大変だろうと想像します。

もっとも、そういう理由ですたれてしまったんだろうと思いますけど、とにかく演奏自体は悪くありません。オリジナルへのこだわりはともかく、比較的素直な演奏で、しっかりした響きが心地よい。こういうのもありかな、という感じでした。