渡辺貞夫さんは、日本のジャズシーンを作り上げた1人として、忘れてはならない存在です。1933年生まれですから、もう75歳を過ぎたんですねぇ。
最近はカメラの宣伝とかで、なんとなくいいおじいちゃんとして見かけますけど、もちろん昔はばりばりで凄かった。
特に、自分がジャズにはまりだした70年代は、ナベサダは40代。もう、技術的にも精神的にものりにのっていたんでしょう。
特にはじまったばかりの頃のFM東京で、My Dear Lifeというレギュラーの番組を持っていて、油井正一(評論家)のAspect in Jazzとともに、自分にジャズを楽しさをとことん教えてくれたものです。
アルト・サックスを演奏するわけですから、当然Charlie Parkerの模倣から始まって、しだいにややアヴァン・ギャルドな方向へ走り出したのが70年代初め。このときに、まだMiles DavisのもとにいたChick Coreaとの競演盤は、ものすごいエネルギーでした。
しかし、すぐに180度の方向転換をして、アフリカ賛歌というようなナチュラルなサウンド指向を目指すことになります。個人的には、パーカッションを多用して、空と大地の間を駆け巡るようなサウンドは気に入っていました。
そこへ70年代後半に、いわゆるクロスオーバー・ブームです。リー・リトナーなどが火付け役になり、一気にメローなサウンドが人気となり、猫も杓子もクロスオーバーです。
当然、ナベサダも78年の"California Shower"でクロスオーバーに突入し、"Morning Island"、"Orange Express"と次々にヒットを飛ばすわけです。正直言って、これは聴きたくない。聞き流せばいいだけの音楽になってしまった、と言うと怒られるかもしれませんが、自分の中ではナベサダは終わってしまいました。
最近、CDでアルバムを買い直したんですが、それがこの1976年の"I'm Old Fashioned"です。アフリカ賛歌からクロスオーバーに転換していくはざまに、ナベサダは一瞬ジャズの世界に戻ったんです。
ここで聴かれるのはストレート・アヘッドな4ビートのワン・ホーン・クァルテット。しかも、バックのトリオが凄い。Great Jazz Trioとして一世を風靡したHank Jones、Ron Carter、Tonny Williamsなのです。強烈なリズムにハンクのいぶし銀のようなピアノがかぶさって、ナベサダは本当に楽しそうに原点回帰しているのです。
もう1枚、同じメンバーでのアルバムを作っていますが、もうこんだけ楽しいアルバムは他にはありません。ジャズの楽しさを知るのに、初心者の方にも是非聴いていただきたい1枚と言えるかもしれません。