原作・・・昨今の邦画としては珍しくマンガではない・・・の小説を読んでいる人にとっては、違う視点から描かれる映画に新鮮さを感じるかもしれません。
小説では、桐島が部活を突然やめるというエピソードを主な仲間ごとに追っていく形式だったのが、映画では時間軸で収束して拡散していく様子を何度も見せていきます。
通常、主人公の視点を主観的にたどることで、映画のストーリーは進行します。その中で、観客は主人公に共感して泣いたり笑ったり、応援したりがっかりしたりと、感情的な入り込みをしていくのが映画の楽しみ。
この映画では、ある高校の人気者の桐島が中心。ところが、桐島は出てこない。原作を知らない者にとっては、桐島って誰? というところからスタートするのですが、積極的な説明はまったくないまま映画は進行します。
桐島が部活をやめ、学校にも来ない、携帯にも反応しないという、まったく周囲の仲間にとっては予想もしていなかったことに直面して、それぞれの桐島との関係が少しずつ明らかになっていきます。
そして、仲間同士の関係も、桐島の喪失により水面に落とした石の波紋が広がっていくように揺れながら変化していく。
一人が桐島を目撃したと思ったことで、桐島を追って全員が学校の屋上に集合する事で、変化した仲間たちの関係が明白になり一種のカオス状態になる。そして、波紋は消えていく感じで映画は終わります。
高校生の時に、誰しもどこかで感じた事があるだろう何かを、登場人物の中に見つける事ができるわけで、見る人によって「主人公」は違ってくるのだろうと思います。
監督は吉田大八という、50歳代になったCM関係の仕事をしてきた人。これも珍しくテレビ出身ではなく、CMという超短編を作ってきた人らしく、映像に無駄が無い(テレビは時間の無駄使いが多い)。
昨年、メディアで取り上げられる事もなかったのに、公開されるや口コミで話題となった久しぶりに映画らしい邦画なのかもしれません。
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