J.S.バッハの残されている三位一体節後第4主日のための教会カンタータは3曲あります。
1715年 BWV 185 永遠の愛の憐れみ満てる
1723年 BWV 25 まじりけなき心
1732年 BWV 177 われ汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ
三位一体節が終わると、キリスト教の教会暦では、いくつかの記念日を除いて、クリスマス・シーズンまではめだったイベントは無く、地味で長い半年。
教会暦に沿ってカンタータを聴いてこうという計画では、単調すぎて飽きてしまう心配があります。そこで、重要なのが、いろいろな取りこぼしを拾い集めていくことかも。
まず考えたのが、世俗カンタータです。バッハの教会カンタータで、重要な要素となっているのが「パロディ」、つまり他から、あるいは他への転用です。世俗カンタータは、その宝庫であり、また究極的にはバッハ最後の作品とされるロ短調ミサ曲へ続きます。
ただ、世俗カンタータは、かなりの量が散逸しているようで、記録がある数にたいして残されたものはかなり少ない。
ペーター・シュライヤーの録音が、CD8枚で最も多数を収録しています。単に聴くだけなら、これがベストなんですが、今は廉価なBrilliant盤しか入手できず、資料的にも乏しい世俗カンタータを聴くにはちょっと辛い。
そこで、期待度が高いのが鈴木雅明が率いる我が日本のBach Collegium Japanの演奏でしょう。教会カンタータ全曲を昨年収録し終え、以前より継続的に行っていた世俗カンタータへの取り組みも継続しています。
今年は、すでにその第4巻が発売されており、今後も続くものと考えられるので、大多数の世俗カンタータを網羅できるものと期待しています。
もう一つ聴きたいのが、偽作と呼ばれる作品群。バッハが他人の作品を写譜してコレクションにしていたものが、自作として残されてしまったものや、単純に作風からバッハのものと解釈されていたものなど、おびただしい数の作品があるのです。
まぁ、今のように著作権とかはっきりしていないでしょうし、パソコンも無くデータベースも構築されていない300年くらい前のことですから、しょうがないと言えばしょうがない。
真の作曲者が判明しているものは、同時代のスターだったテレマンなどのものが多い。作曲者不明というものもかなりある。受難曲のうちルカ受難曲は、誰かの作品を写譜したことが判明していて、現在ではバッハの作品としてははずされています。
実は、バッハの作品として最も有名かもしれないのが「トッカータとフーガニ短調 BWV565」というオルガン曲も、今では偽作の疑い濃厚とされているんですね。
フーガがバッハの曲としては簡単すぎるという理由かららしいのですが、もしもこの曲が偽作と断定されるようだと、クラシック史上最大の勘違いということになるかもしれません。
はっきりと偽作として作曲者が特定されているものは除いて、バッハの作曲である可能性が残されているものについては、一通り聴くべき価値があるのですが、残念ながらそれらを取り上げる演奏家はほとんどいない。
これらについてはヘルヴィヒの演奏の一択です。ヘルヴィヒは、これらの埋もれた作品に注目して、精力的に収録をしたのですが、計画途中ですでに亡くなってしまいました。
とにかく、クラシックという限られた範囲ですが、楽しみ方はいろいろあって、そうは簡単に制覇できない深さがありますので、飽きたなんてことはとうてい起きそうにありません。