鈴木雅明は1954年生まれ、今年還暦を迎えた兵庫出身の日本人。プロテスタント系のキリスト教信者で、芸大卒業後、オランダに渡りトン・コープマンに師事して腕を磨き、日本で古楽の教育活動に携わりました。
1990年にバッハ・コレギアム・ジャパン(BCJ, Bach Collegium Japan)を結成し、主としてBIS recordにバッハを中心とした録音を行い、海外では古楽系アーティストとして高い評価を受けています。
2012年にはバッハ・メダルを受賞したことは記憶に新しい話です。バッハ・メダルは、バッハの総本山とも言える、ライプツィヒ市から送られるもので、毎年6月にあるライプツィヒ・バッハ音楽祭で授与されます。
バッハ・ルダルは古くからある権威のある賞かと思ったら、実は意外にも歴史はまだ浅い。2003年から始まったもので、まだ10年ちょっと。
でも、何しろライプツィヒ市が後ろ盾にいるというだけで、その重みは十分に担保されているわけで、逆に今までの受賞者を見てみると、現代における注目すべき最高のバッハ演奏者が誰なのかが一目瞭然です。
第1回のレオンハルトから、リリング、ガーディナー、コープマン、アーノンクール、マックス、ベルニウス、ヘレヴェッヘ、ブロムシュテットときて、2012年が鈴木雅明。そして、昨年はシュライヤーで、今年は何とベルリン古楽アカデミーです。
それはさておき、鈴木雅明のBCJのバッハ演奏は、比較的癖がない正確無比な演奏で知られ、ある意味完璧すぎるというのが、むしろ欠点だったりします。もともとクリスチャンである鈴木雅明の、日本人にしては深い宗教的理解から来るものなんだろうと思います。
ガーディナーのバッハ・カンタータ全集は、教会暦に従って、1年間で一気に演奏されたもの。まさに情熱の塊で、多少のキズがあったとしても(実際キズがないのがすごいことなのですが)、音楽の勢いでねじふせてしまおうというところ。
一方、BCJは1995年からカンタータに取り組み、昨年までの18年をかけて、演奏会と録音で全曲を制覇しました。ガーディナーとは対極的な取り組みで、一つ一つをじっくりと熟成させたものです。
そして今月、待望の全集のボックスが発売されたのですが、これがいろいろな意味でびっくりすることが多い。最初に言うのも何ですが、まずは驚いたのはその値段。なんと10万円!!
昨今、廉価ボックス流行で、かつての名盤がCD一枚数百円程度で入手可能が当たり前。 50枚組みで1万円程度のものが大量に出回っているわけですから、10万円という値段には驚いた。
でも、よく考えると55枚のCDのセットですから、一枚あたり約1800円と考えると、新譜であれば法外な値段ではありません。しかも、さらに驚くのはすべてSACDになっていること。
18年かけて録り貯めてきたものですから、当然初期のものは、通常録音のCDでした。これを、あらたにリミックスしているという、ずいぶんと手間をかけているわけです。
さらに驚く事は、この全集は実は完全限定生産の日本盤のみのリリースで、通販大手のamazonとHMVでは、発売日までに完売。Tower Recordのみが、在庫僅少という状況。amazonでは、早くも倍額の中古が出品されています。
実は、自分も買っちゃった!! のですが、この価格ですから、今年下半期に使うかも知れない分をすべて、これに投入した感じ。幸い、ポイントバックも大量ですから、どうしても聴きたいCDが見つかったときはポイントで購入することにしたいと思います。
実際、このセットの購入動機の大きなポイントにあるのが、日本盤であることで付属している日本語の解説。なんと、全部で1000ページにも及ぶ、楽曲の解説と対訳がついているわけで、いろいろな資料をバラバラに見ているのはなかなか大変でしたが、まとめて日本語で読めるのかすごく嬉しい。
もう一つのポイントは、収録順序。ガーディナー盤と違って、こちらは作曲年代順ですから、バッハの音楽的な成長とともに聴いていけるという、別の楽しみがあります。パロディ関係などは、この方が理解しやすい。
そんなわけで、ガーディナー盤と鈴木盤の両方をクロスさせながら、カンタータ制覇の作戦は、さらなる高みへと・・・いや、もっと大変なことになってきたのかもしれません。