三位一体節後第6主日です。もう、どんな暦を追っかけていても、時間がたつのがやたらと早くて、ぼーっとしていると、何もしないうちにクリスマスを迎えそうな感じです。
この日のためにバッハが用意したカンタータは、2曲が残されています。
BWV170 満ち足れる安らい、嬉しき魂の悦びよ (1726)
BWV9 われらに救いの来たれるは (1732頃)
BWV170は、タイトルが示すとおり、大変優しい安らぎのメロディが印象的な出だし。しかも、全編がアルト歌手の独唱という珍しいパターンです。途中で、不安になり、最後にまた喜びに満ちていくという構成。
カンタータの中にコラール(伝統的なプロテスタントの賛美歌)を組み込む事を重視していたバッハとしては、コラール合唱を含まない曲は珍しい。ふだんはトーマス教会の学校の生徒から選抜した歌い手を使っているわけですが、当然彼らに1曲丸ごとまかせるというのは冒険のしすぎ。
生徒たちとは別に、相当優秀なアルト歌手がライプツィヒに滞在して、その歌手のために用意したと考えるのが順当のようです。当時、教会では表立って女性が歌う事はなかったので、それはカウンターテナーの男性か、あるいはカストラート(去勢した男性歌手)かもしれません。
他にも1726年の夏から秋にかけて数曲のアルトによるソロ・カンータがあるので、特定の歌手を引き立てる目的があったことは間違いないと考えられています。
BWV9は、コラールとコラールの間に、アリアとレチタティーボを交互に挟んでいます。比較的典型的な作りですが、中央に位置するアルトとソプラノの絡み合うデュエットは聴き応えがあります。
バッハは、1723年の三位一体節以後、ライプツィヒに赴任してはりきって作曲活動をしていたものの、そろそろ疲れがでてきていたのか、1723-1725年のこの日のためのオリジナルは残されていません。
そのかわり、1725年にはテレマン、1727年にはヨハン・ルードヴィヒ・バッハのカンタータを演奏したようです。他人の作品を演奏して、自分の頭はちょっと休憩させたのではないでしょぅか。