バッハが作曲した世俗カンタータの数は、少なくとも50以上はあったと考えられていますが、完全な形で残されているものは非常に少ない。大多数が記録上は確認されていても、歌詞と楽譜の片方か、あるいはいずれもがが見つかっていません。
研究者は、いろいろな調査によってある程度の復元を行ったりしているわけですが、特定の機会のために一度だけ演奏されることが多い世俗曲は、その実態を把握することは困難がつきまといます。
BWV524 クォドリベト(断片) (1707頃) $
用途不明
これは、最も古いもので、今でも演奏されることがあるものの、一部の断片のみ。
現在、演奏しうる形が残されているものは、次の20曲となります。
BWV208 狩のカンタータ、楽しき狩こそわが悦び (1713) $,#,*2
ヴァイセンフェルスの領主の誕生日祝賀会用
BWV134a セレナータ 日々と年を生み出す時は (1719) $,*2
ケーテン宮廷の新年の祝賀会用
BWV173a セレナータ いとも尊きレオポルト殿下よ (1722) $,*3
ケーテン候レオポルトの誕生日祝賀会用
BWV203 裏切り者なる愛よ (1723以前) $,#
用途不明 イタリア語ソロカンタータ
BWV209 悲しみのいかなるかを知らず (1729以後) $,#
用途不明 イタリア語ソロカンタータ
BWV198 侯妃よ、さらに一条の光を (1727) $
ライプツィヒ大学追悼行事用
BWV36c 喜び勇みて羽ばたき昇れ (1725) $,#,*3
ライプツィヒ大学教授誕生日用
BWV205 鎮まれるアイオルス、破れ・砕け・壊て (1725) $,#,*4
ライプチィヒ大学学位授与の祝賀会用
BWV207 音楽劇 鳴り交わす絃の相和せる競いよ (1726) $,#,*4
セイプチィヒ大学教授就任の祝賀会用
BWV202 しりぞけ、もの悲しき影 (1730以前) $,#,*3
用途不明 婚礼用?
BWV210 佳き日、めでたき時 (1727以前) $,#,*1
用途不明 婚礼用?
BWV204 満足について、我は己が内に満ち足れり (1726-27) $,#
用途不明
BWV201 フェーブスとパンの争い、急げ渦巻く風ども (1729) $,#
用途不明
BWV211 コーヒーカンタータ、おしゃべりはやめてお静かに (1734?) $,#,*1
用途不明
BWV210a 楽しき旋律よ (1729)
ヴァイセンフェルス公の訪問の表敬用
BWV30a たのしきヴィーデラウよ (1737) $
J.C.ヘニッケへの表敬用
BWV212 農民カンタータ、わしらの新しいご領主に (1742) $,#
C.H.ディースカウへの表敬用
BWV213 岐路に立つヘラクレス、われら心を配りしかと見守らん (1733) $,#
ザクセン選帝侯の誕生祝賀会用
BWV214 鳴れ太鼓よ、響けトランペットよ (1733) $,#
ザクセン選帝侯妃の誕生祝賀会用
BWV215 おのが幸を讃えよ、祝されしザクセン (1734) $,#
ザクセン国王戴冠一周年の祝賀会用
BWV206 しのび流れよ、戯るる波 (1736) $,#
ザクセン選帝侯の誕生祝賀会用
BWV207a いざ、勇ましきラッパの嚠喨たる調べよ (1735)
ザクセン選帝侯の命名日用
世俗カンタータをまとまって収録しているのは、ヘンスラーのバッハ全集のリリングかブリリアントのバッハ全集のシュライヤーが有名。前者がCD10枚($印)、後者はCD8枚(#印)だが完全ではない。
コープマンのカンタータ全集も世俗を含みますが、全体の流れの中に収録されているので、何が入っていて、何が抜けているのか人目では判断できません。
鈴木雅明 & BCJ による世俗カンタータ集は、これまでに4枚のCDが出ているので、それぞれ*1~*4で印しました。
「狩のカンタータ」、「コーヒー・カンタータ」は、特に有名で、単独で収録する演奏家はけっこういますが、他についてはかなり冷遇されているといわざるをえません。
しかし、BWV213~215は、そのまま有名な「クリスマス・オラトリオ」にパロディとして転用されていたりするわけですから、十分に注目すべきジャンルなのです。