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2014年8月16日土曜日

最初のカンタータ

バッハが最初に作曲したカンタータは何番?

というのは、なかなか難しい問題です。何しろ300年前の話ですから、残された証拠は限られています。バッハの書簡、教会の記録などが主な資料となるわけですが、どこかにはっきりと書かれているわけではありません。

まぁ、何番が最初で、何番がいつ作曲されたかなんてことは、音楽を純粋に楽しむだけのことならば、無くて困るわけではありません。ただし、カンタータを作曲順に聴いて行こうとか、あるいは教会暦に従って聴いて行こうとか、あるいはパロディ関係を把握しながら聴いて行こうという時にはけっこう重要なポイントになるのです。

さらに、実はバッハの作曲したものではないものが混ざってくるので、話はより複雑になってしまいます。バッハは、自分の作品だけで毎週の礼拝の音楽を回していくのは、さすがに難しいときがありますから、他人の作品を写譜して、ある程度のストックを持っていました。

これが、場合によってはバッハの直筆譜だけが残っていて、もともとの作品の譜面が消失している場合には、バッハの作品として位置づけられてしまうわけです。

もともと、BWV15の番号がふられていた「汝、わが魂を冥府に捨て置きたまわざれば」というカンタータは最も初期に作られてと考えられていました。

1726年に演奏されている事がわかっているのですが、古くから多くの評論家がこの時期のバッハの作品としては稚拙であると指摘していたにもかかわらず、ネタに困って昔の作品をあらためて持ち出したとしていたのです。

実際にヘルヴィヒの偽作集に収録されている曲を聴いて見ると、確かに素人が聴いてもあまり面白くない。比較的単調な曲調で、まぁ習作と考えればしょうがないという程度の感じです。

ところが、この時期に親戚のヨハン・ルードヴィヒ・バッハ(J.L.Bach)の作曲したカンタータを何曲か使いまわしたことが判明していて、その中の1曲だけが不明になっていたのです。

1950年代末に、 BWV15が実はJ.L.バッハの曲を写譜して使った最後の1曲であることが証明されました。
ですから、現在は1706年から1708年あたりにかけて作曲された考えられている、BWV4、BWV150、BWV106、BWV131のどれかが残されているものとしては最初のものと位置づけられるようなりました。

この証明されるまでの過程というのは、ちょっとしたミステリーの謎解きのような面白さがあります。推理小説のジャンルで安楽椅子探偵(Armchair Detective)と呼ばれているものがあって、探偵がどこかに出かけていかずに、集められた情報だけの中から推理していくもの。

殺人事件は起きませんが、バッハにまつわる謎を解くと言うのは、まさに安楽椅子探偵的な面白さがあるものです。興味がわいたら、是非そこらあたりを突っ込んでみると、よりカンタータが面白くなってきます。