この映画は、長編劇場映画としては綾瀬はるかの最初の主演作品。監督はVシネマでピンク映画を主に作っていた磯村一路で、一般映画は他に「解夏」なども監督しています。
最も、映画の前半は主人公二人の子供時代の話で、綾瀬はるかが活躍するのは後の半分。しかも、聴覚障害者という難しい役どころ。
北海道の大自然で楽しく暮らす新平(須賀健太)と小百合(志田未来)。耳が聞こえず話ができない小百合は、新平の言葉だけは聞こえ、新平も小百合の言いたいことが自然と理解することができるのです。
新平の母(中谷美紀)は、夫が山で遭難して亡くなったため、女手一つで畑仕事や子育てをしていました。夫の事故の原因を作ったのは造り酒屋の小百合の父(阿部寛)でした。
新平は絵を描くのが好きで、小百合と二人で川で遊んでいるうちに雨鱒に出会います。そして、雨鱒とも心を通わせるようになり、描いた雨鱒の絵が世界的なコンクールで入賞しました。その祝いの会の帰りに、疲労がたまって体調を崩していた母が亡くなります。
新平(玉木宏)は小百合(綾瀬はるか)の父の援助で、高校を卒業後は酒蔵の手伝いを始めましたが、絵ばかり描いていて、仕事は失敗ばかり。酒蔵の将来を考える小百合の父は、幼馴染の栄蔵と小百合を結婚させ蔵を継がせるために、新平を絵が描けるという利用で東京に追い出します。
小百合の気持ちは置き去りにして、どんどん結婚の話を進める父。しかし、祖母(星百合子)は、蔵を継いでもらいたい気持ちもありますが、本当に孫の幸せを願って新平に手紙を書くのでした。東京でなかなか絵の仕事が手に付かなかった新平は、その手紙を読んで一気に絵を描きあげると、故郷に戻り結婚式が間近に迫っていた小百合を連れ出します。
追いかけてきた、父親や栄蔵に、小百合は気持ちが通じるのは新平だけだということ、そして二人は互いにつがいの雨鱒のように大事な存在であることを必死に訴えるのでした。小百合の父は、なすすべもなく二人が一緒に去っていくのを見ているしかありませんでした。
まず主として夏の北海道の大自然をふんだんにロケした映像は美しく、それだけで純粋なこどもたちのわくわくして楽し気な様子が気持ちよい。こどもたちだけで、映画を一本作ってもよかったんじゃないかと思えるくらい充実しています。
まだ20代の中谷美紀も若々しくて、男の子を元気に育てるシングル・マザーを好演しています。二人の子役も、演技達者とは言えませんが、雰囲気に溶け込んで無理なく映画の中を走り回っている。
それに比べると、大人になってからのパートはやや深みに欠ける感じかします。しかし、小百合のためと言いつつも本当は蔵の将来を何とかしたい父、蔵も心配ですが孫の幸せを願う祖母らの心情はよく描かれていて、せりふがほぼ無い綾瀬の演技もしっかりしているところが素晴らしい。
多少、嘘っぽい場面もありますが、悪い人が一人もいないので、終始おおらかな気持ちで見終えることができる映画です。