是枝裕和は、今や、世界中で記憶される映画監督となりましたが、そのキャリアのスタートはドキュメンタリー作家で、初期の監督作品でもノンフィクションを映像化する手法が独特の世界を生み出していました。
しかし、ドキュメンタリー作品については、ほとんどテレビ局での仕事で、現在一般に視聴することはできません。DVD化されて、今でも入手可能なのは、劇場公開もされた2008年の「大丈夫であるように -Cocco 終らない旅-」と、広島テレビ制作のこの作品だけです。
「いしぶみ」は、1945年8月6日、原爆によって全滅した旧制広島県立広島第二中学校1年生321名の記録です。元々は1969年に広島テレビが、松山善三の企画で広島出身の杉村春子が朗読を担当しました。
戦後70周年の節目としてリメイクされることになり、その監督に是枝裕和があたり、そして朗読はやはり広島出身である綾瀬はるかが担当しました。綾瀬はるかの周りに木箱を配して、生徒たちの遺影をプロジェクションで映し出していく演出、そして池上彰が関係者を訪ねる様子を織り交ぜて構成されています。
日本は第2次世界大戦の中で、加害者側であると同時に、唯一の原爆の被害を受けた国として認知されます。自分も含めて、ほとんどの日本人が戦争体験が無く記憶が風化していく現代では、すべての戦争の記録の重要性は増しています。この作品も、それらの記録の一つとして残していくべきものと思います。
ところで、女優・綾瀬はるかとしては、この作品は通常のフィルモグラフィに数えるものではありません。俳優としてフィクションを演技しているわけではありませんが、すでに多くの戦争関係のドキュメントに出演してきた綾瀬はるかの「仕事」の一つとしては無視できないものです。
今後も綾瀬はるかは女優業と並行して、広島出身という立場から、継続されるであろう「語り部」としての仕事も注目していきたいと思います。