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2019年3月27日水曜日

容疑者Xの献身 (2008)

東野圭吾原作の人気シリーズでテレビ・ドラマ化され、福山雅治の代名詞みたいに有名になったキャラクターが、天才物理学者のガリレオこと湯川学。

ガリレオ・シリーズは、基本的な形式は倒叙法。倒叙法は、犯人は初めからわかっていて、犯人の用いたトリックを明らかにしていくことに主眼が置かれています。「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」などの例を出すとわかりやすい。

この映画はドラマから派生して、ガリレオ・シリーズの長編の一つを映画化したもの。監督は、テレビドラマの関連の物ばかりを扱うフジテレビの西谷弘。

基本的にドラマから続けて作られる映画というのは、ドラマを知らないと楽しめない部分があるので、映画としての独立性が薄くスペシャルドラマで良いレベルの作品が多い。特に連続ドラマの最終回から、話の完結編は映画でみたいなこともあって、今の映画界がテレビ局の影響なしには存在していないことを思い知らされます。

ここでは、湯川学とはどんな人間なのか、そして仲間である内海、草薙との関係性については、映画の中で、ドラマを見ていない人にもわかるように最低限の情報は提供されています。しかし、連続ドラマでの湯川の決め台詞やポーズを使わず、あくまでも主役を犯人側の二人にしたところが、映画としての独立性を高めることに成功しています。

石神哲哉(堤真一)は、かつては数学の天才と呼ばれていましたが、やむをえず研究の道を離れました。今は高校の数学教師で、空虚な毎日を過ごしている、生きる屍のようでした。毎朝立ち寄って弁当を買うのは、アパートの隣人、花岡康子(松雪泰子)の店です。

ある日、元夫が康子の住まいを探し当て、金目当てに脅し、また娘に手を上げたことで争いになり、康子は元夫を絞殺してしまいます。隣からただならぬ音が聞こえてきたため、石神は様子を見に行くと、死体を前に呆然とする靖子と娘に、「私がなんとかします。私の指示通りにするように」と言うのです。

その後、空き地で死体が発見されますが、身元がわからないように顔がつぶされていたり、指紋が焼かれているにもかかわらず、被害者が乗っていたらしい自転車の指紋などから、簡単に特定されます。警察は、元妻の靖子を訪問しますが、鉄壁なアリバイがある。

警察の草薙(北村一輝)、内海(柴咲コウ)は、困ると湯川に相談。靖子が怪しいのだが、アリバイが崩せないこと、隣人が湯川の旧知の石神だったことを伝えます。湯川と石神は学生時代から、お互いを天才と認め合った仲でした。湯川は、事件の解決に乗り出すことにしました。

さすがに、謎解きの要素が強い映画ですから、これ以上のネタバレはできません。この後、天才と天才の心理戦を楽しむことになりますが、表面的に見えていない驚愕の真相もあり、最後まで緊迫感が持続します。

映画としては、原作の力に助けられている部分が大きい。つまり、キャラクターの魅力とトリックの巧妙さが、ストーリーを支えています。さすがに、映像化作品の多い作家だけのことはある。

でも、上から目線的な湯川に対して、原作にはない二人で山に登るシーンでは、唯一立場が逆転し石神の人間性を明確にして二人の関係を強調します。視覚的にもサスペンス度を強めることに成功していることは、映画ならではなのかもしれません。

そして、堤真一の演技が際立ちます。大学で准教授の地位にあり、成功した天才、湯川と比べ、石神は忘れられた存在で、自分ですら自らの存在理由を失いそうになっている。ずっと猫背で、ぼそぼそ話す、ここまでうだつの上がらない風貌の堤真一は見たことがありません。

天才湯川が真相にたどりついても、天才石神は、幾重にも柵を張り巡らし、完璧な数式で湯川に勝利します。しかし、ラストで大声を上げて泣き崩れる。堤の渾身の慟哭は、いろいろな感動を呼び起こすのです。