自分が知っているオーケストラで、最高峰とされているのはベルリン・フィルですが、自分の好みで言うと一番ではない。超重量級の音圧を誇るこの集団の演奏が、現代クラック音楽演奏に与えた影響は計り知れませんが、功罪両面があると思っています。
その音楽総監督というと、クラシック界の帝王と呼ばれる存在ですが、フルトヴェングラーの時代はリアルタイムには知らないし、残された音源も古いのであまり興味が無い。その次は、天下の泣く子も黙るカラヤンですが、自分にとっては当初フル・オーケストラの音楽を苦手にした元凶と言える。
続くアバドは個人的には嫌いではありませんが、病気のため短い期間で退任してしまいました。そして、つれに続くのがサイモン・ラトル。ラトルは、ベルリンフィルの重厚さはそのままに、曲によって編成を大幅に変えて、時には古楽奏法も取り入れで風通しの良い今の時代に見合った改革を行いました。
また、ラトルは経営面でもいち早くデジタル市場への参入を果たし、自主レーベルの立ち上げなどの功績も大きいのですが、昨年、最後の定期演奏会を行い勇退しました。今年から総監督に就任したのは、キリル・ペトレンコで、チャイコフスキーの「悲愴」のアルバムがリリースされました。
歴代の総監督の特色を知るためにメルクマールとなる演奏というのがあるとしたら、ベルリンフィルだけにドイツ古典の代表ベートーヴェンは外せないところ。特にフルオーケストラをどのように使い切るかは、交響曲に最も特徴が現れるのではないでしょうか。
クラシック音楽最大のレコード会社ドイツ・グラモフォンが、20年前に作曲家別のすべての楽曲を集大成する巨大ボックスの先駆けと云える「Complete Beethoven Edition」を発表しました。ここで、交響曲シリーズに選ばれたのはカラヤンで、当然と言えば当然。
来年はベートーヴェンの生誕250周年ということで、今年11月に新たな大全集が発売されることになっています。今回は、なんと交響曲全集が3セット含まれるようです。そのうち2セットは、カラヤン、バーンスタイン、ベーム、アバド、シャイー、クライバー、ジュリーニ、などのオールスター混成全集。そして唯一全曲通しで収録されるセットは、何とガーディナー盤というから驚きです。
古楽界の重鎮であるガーディナーのベートーヴェンは確かに名盤として知られ、重すぎず軽すぎず、軽快なテンポできびきびとした演奏が心地よく、自分も一番よく聴くセットです。現代の感覚で選択されるのはありうる話だとは思いますが、裏を返すとラトルがドイツ・グラモフォンに音源をのこしていないということ。
ラトルの交響曲全集は2つありますが、最初はウィーンフィルと共演し(2002年)ワーナーから発売されました。そして、もう一つはベルリンフィルと共に(2015年)自主レーベルからの発売です。このあたりは、産業としてのクラシック音楽界のいろいろな問題が透けて見えるところです。
それはともかく、大好きなガーディナー先生のベートーヴェンの格がさらに上がった感じがするのは贔屓の引き倒しかもしれませんが、より多くの人に聴いてもらえる機会が増えることは間違いありません。