クラシック音楽は「交響曲」じゃなくちゃ、と考える人は多いと思います。
確かに、多数の弦楽器・金管楽器・木管楽器・打楽器などを用いた大規模な多楽章構成の楽曲は、作る方も大変でしょうし、聴く方も一定のエネルギーが必要。
それに比べると、少人数で演奏される「室内楽」は、気楽にセッションを楽しむところがありますが、一つ一つの楽器が出す音がはっきりするだけに演奏者の技量も高度なものが要求されます。
どちらかというと、小規模な室内楽、とくにピアノが入ったものが好きなので、Martha Argerichのルガーノ音楽祭のシリーズは、すでに知っている曲も、初めて聴く曲も、大変楽しむことができる嬉しい企画でした。
・・・でした、と過去形なのは、実は2016年で音楽祭が終了してしまったんです。
2002年に始まり、アルゲリッチは若手育成の目的で、「アルゲリッチ・プロジェクト」と称して積極的にこの音楽祭に毎年、有望な若手を登用してきました。一緒に演奏するだけでなく、若手だけでの演奏もたくさん行わせ、さしずめクラシック道場の様相を呈しています。
当時、大手レコード会社のEMIが、翌年にそのエッセンスをセレクトした3枚組のCDセットを毎年発売していて、「Live from the Lugano Festival」と銘打ったものだけでも42枚、それとは別に単独で発売されたものが数枚、またグラモフォンからもアルゲリッチの協奏曲演奏のみを集めたボックスもあります。
ところが、2012年に老舗EMIが消滅し、2013年からはワーナーに過去の音源も含めて権利が移りました。ですから、ルガーノのシリーズはどうなるのかと思っていたら、2013年からは最初からワーナーのレーベルでの発売で継続され安心というところ。
ところが、一番のスポンサーであったスイスのプライベート・バンクのBSIが、2015年にアメリカで脱税ほう助に対する巨額の罰金を科せられ、音楽祭からの徹底を余儀なくされてしまいました。
実はアルゲリッチは、同様の主旨で日本の別府でも、ルガーノよりも古く1996年から自分の名前を冠する音楽祭を毎年行っていて(実質的には1994年から)、今年で第21回を迎えていました。
ただし残念ながら、そうそうたる演奏家もこれに出演しているものの、日本人の若手も多いせいか残された記録は多くはありません。ルガーノが消滅してしまったので、どこかのメディアが今後継続的なCD、DVD発売などを行ってくれると嬉しいかもしれません。
2018年は、ハンブルグで似たような企画の音楽祭が開催され、もうじきその時の演奏集が発売されるようです。なんと、いきなりCD7枚組で、何もなかった2017年の分も埋め合わせてくれる勢い。今後もこういう企画が継続されることを大いに期待します。