2019年8月13日火曜日

Sir Simon Rattle BPO / Beethoven Complete Symphonies (2015)

ドイツグラモフォンと決別(?)したラトル率いるベルリンフィルのベートーヴェン交響曲全集は、自主レーベルからの発売。実はガーディナー先生も、21世紀になってアルフィーフ・ドイツグラモフォン系列と決別して自主製作路線にいち早く切り替えていました。

クラシック音楽のCDはどんなに売れても、AKB48の何十分の一です。商売として考えると、かなり辛いはず。ガーディナー先生のCD50枚以上になるバッハのカンタータ全集を、アルフィーフが断念しても責められない。

ドイツグラモフォンは、古い音源をいろいろなくくりで集めたボックスセットをたくさん出してマニアに再度買わせていましたが、技術革新でSACDが登場すると今度はアルバムごとにさらに買わせる。さらにBluray Audioが出てくると、またもや再発売して買わせる。

何とも消費者泣かせの作戦で命を繋いでいるような感じですが、それらがさらなる価格破壊を起こしていることもありそうです。ボックスセットにすると途端にCD一枚が数百円になってしまいます。新しいより音質の良いものが出てくると、古い物はさらに値崩れして、消費者は高いものに手を出さなくなっていきます。

発売予定のドイツグラモフォンの「ベートーヴェン新全集」の含まれるガーディナー先生の交響曲全集は、自分が中古で手に入れた時は5000円くらいでしたが、廉価版が登場して新品でも4500円、中古だと2000円を切るような状況です。

ベルリンフィルはラトルの時代になって、自主製作レーベルを立ち上げました。ここから登場する作品はまだまだ多くはありませんが、一つ一つが吟味された濃い内容のものばかりで大注目です。

しかも、ちょろちょろ小出しにするけちなことはしません。通常CD盤、Bluray Audio盤をセットにしたり、ライブ映像BDまで付属したりします。また、SACD盤も同時に発売して、消費者は自分の視聴環境に合わせたセットを選べる。さらにハイレゾ音源は無料ダウンロード可能という具合に至れり尽くせり。

さて、そのラトルのベートーヴェンですが、以前のウィーンフィルとの全集も、攻めに攻めた演奏が評判になりましたが、それから15年たって、攻めるところは残しつつもまろやかさも合わせた円熟の演奏と云えそうな出来です。

全部で9曲あるベートーヴェンの交響曲ですが、自分の場合にまず最初に聴いて気に入るかどうか決定づけるのが第九です。小学生の時に最初に買ったベートーヴェンのレコードが、ベームウィーンフィルの第九でした。それがスタートにあるので、どうしてもその印象と比べてしまうのは避けられない。この曲の出来次第で、そのまま陳列されて終わるだけの存在となるか決まってしまいます。

ここでは・・・・さすがにそつのない演奏です。世界最高峰のオケは伊達ではありません。ライブ収録ですが、ラトルのやや早めの指揮に、一分の狂いもなくぴたっと合わせていく演奏は見事です。

この曲の白眉と云えるのは第4楽章の声楽。さすがにガーディナー先生の精錬されバランスの良い歌手の使い方には負けるとはいえ、バロック声楽物すらものにしてしまうラトルですからここでも優れた演奏を聴かせてくれました。

カラヤン、ベーム、バーンスタインらの超重量級演奏と、ガーディナーの風通しの良い演奏の中間を埋めるのにちょうど良いという感じです。