しかし、死後にバロックから古典派音楽への転換に大きく影響を残した作曲家として大きく評価されることになり、特に最後の作品となった「スターバト・マーテル」は、最も優れたものとして人気があります。
13世紀にキリスト教カトリックで作られた聖歌である「スターバト・マーテル」は、聖母マリアが磔刑に処されたイエスを悲しむ内容のもので、9月15日の聖母マリアの記念日に歌われる習慣があります。
多くの作曲家が、この歌詞を基に新たな音楽を作っていて、ペルゴレージ以外ではヴィヴァルディ、ハイドン、ロッシーニ、ドヴォルザークのものなどが有名です。しかし、ペルゴレージの「スターバト・マーテル」は、その中で最も高く評価されていることは間違いない。
12曲から構成され、演奏時間は35~40分程度。歌手は、ソプラノとアルトによるの女性二重唱です。ただし、アルトのかわりにメゾ・ソプラノ、コントラ・アルトが登用されることもありますし、男性のカウンター・テナーが歌うのも珍しくありません。
古楽演奏が盛んになる前の、この曲の定番のレコードはクラウディオ・アバド盤でした。1983年の録音で、ロンドン交響楽団から小編成で伴奏を行い、ソプラノはマーガレット・マーシャル、アルトはルチア・ヴァレンティーニ・テッラーニ。
アバドは、後に何と古楽器編成で再び再録音をしていて、優雅さよりも奥行きを増しているように思います。自分としては新録音の方が好みですが、いずれも素晴らしい演奏であることにかわりはありません(ちなみにアバドは1979年のライブDVDもあり)。
ただし、ここで紹介するのは現代オペラ界最大の人気を誇る歌姫、アンナ・ネトレプコが歌うもの。ネトレプコにとっては初めての宗教曲であり、オペラでの情緒的な歌唱を封印して、ビブラートをおさえた中で、聖母マリアの悲しみを歌い上げるのはさすが。
ただ、ネトレプコありきの企画なので、アルトのマリアンナ・ピッツォラート、指揮のアントニオ・パッパーノがちょっと弱い感じなのが残念かもしれません。2010年7月、バーデン=バーデンにおけるオペラ・ガラでのライブで、この模様はビデオとしても見ることが出来ます。
内容としては、歌手の感情表現が強すぎるとの否定的意見も多く、必ずしも「名盤」とは言いにくいのですが、聖母としてよりも母親として悲しみを率直に表現するという意味では悪くありません。