例えば、武満徹の音楽を聴くなら日本人の演奏で聞きたい。というのは、世界中に優れた演奏はたくさんあるわけで、何も日本人の演奏がことさら秀でているわけではありません。ただ、日本人のなら、最も武満の音楽を理解できるはずという願望みたいなところでしょうか。
同じ理由で、イタリア・バロックならできればイタリア人の演奏で、ドイツ・バロックならドイツ人の演奏でというのは、絶対的な条件ではありませんが、それがあるならそっちを選択というくらいのもの。
できるだけ作曲者の生きた時代の楽器と演奏法で音楽を再現するという、古楽の考え方にちょっと似ている感覚です。もっとも自分の古楽の先生はJ.E.ガーディナーで、この方はイギリス人ですけどね。
そこで、御年72歳となるジュリアーノ・カルミニョーラは、イタリア・バロックを聞く上ではヴァイオリン奏者として重視したくなる。イタリア人だということもありますが、ベルリン・フィル勇退後のクラウディオ・アバドとのコラボレーションがけっこうあるというのも理由の一つ。
アバドもイタリア人で、自分にとってはアバド抜きでマーラーを聞くことができません。一方で、アバドは、自ら育てた若手や、アバドのもとに一緒に演奏したいと世界中から集まったベテランと共に、古楽系(に近い)の演奏を行うモーツァルト管弦楽団というのも組織しています。
ルツェルン祝祭管弦楽団とメンバーは被りますが、とにかくどちらも音楽を演奏することが楽しくてしょうがないという雰囲気の中で、アバドの中心に常設の楽団に負けないエネルギーを感じられるところが気に入っています。
モーツァルト管弦楽団の準レギュラーのようなソロイストとして、カルミニョーラはしばしば登場するわけで、バッハのブランデンブルグ協奏曲とともに音源が残されたのが、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲集です。バッハもモーツァルトもイタリア人じゃありませんけど・・・
実はカルミニョーラは、1997年にも全曲録音をイタリアのレコード会社に行っていて、その後Brilliantレーベルから登場した廉価版がクラシックとしては大ヒットしていました。地元の仲間とリラックスした伸びやかな演奏は、モーツァルトの楽しさを倍増させていました。
アバドとの演奏はというと・・・モーツァルトがより大人になったという印象。小難しなったわけではなく、余裕をもって音符をいじっているというところが、安心して聴けるところ。たぶん、どちらも人によって好き好きなんですが、自分は円熟の演奏を選択したい感じです。