2023年9月5日火曜日

武士の一分 (2006)

キムタクこと、木村拓哉の最初の時代劇映画。そして山田洋次監督の藤沢周平原作による時代劇三部作の一つ。当時、松竹映画としては歴代最高の興行収入となった大ヒット作です。

幕末の東北にある海坂藩が舞台。藩主の毒味役をしている三村新之丞(木村拓哉)は、妻の加世(壇れい)、父の代から下男をしている徳平(笹野高史)と暮らす毎日。剣術の腕をいかせる道場を持つことが夢。ところが、ある日の毒味で、貝の毒に当たった新之丞は失明してしまいます。

物が見えなければ、武士として使い物にならず、三十石のわずかな禄すら失うことになりかねない。親戚の者たちも、やっかいな問題を背負いこんだと困り果てる。そんな折、町で加世は、新之丞の上司に当たる島田藤弥(坂東三津五郎)から何でも相談に乗ると声をかけられます。

しばらくして、新之丞が失明したのは自分の代わりだからと藩主より、現状の家禄のまま養生してよいと沙汰が決まります。ようやく、少しずつ新之丞と生活も落ち着きを取り戻しつつありましたが、ある時叔母の波多野以寧(桃井かおり)がやって来て、加世の行動が怪しいと告げるのです。

新之丞は、徳平に加世の後をつけさせると、茶屋に入っていくのでした。加世を問い詰めると、島田の家に新之丞のことを頼みに行くと、タダで済むと思うなと無理やり関係を持たされてしまったことを告白します。新之丞は離縁を申し渡し、加世は家を出ていくしかありませんでした。

しかし、その後仲間に調べてもらったところ、島田はまったく口利きはしておらず、新之丞の扱いは藩主自ら言い出したことがわかります。新之丞は、弱味につけ込み加世を慰み者にした島田が許せず、武士の一分として死を覚悟して島田に果し合いを通告するのでした。

ドラマに出れば、いずれも高視聴率で人気の高かった木村の初時代劇とあって、世間の注目度も大変高かった。目が見えない役どころですから、キムタク独特の視線技は使えません。武士であり、しかも田舎訛りのあるセリフですから、言い回しもいつものキムタクとはだいぶ違います。それでも、無難にこなせたのは共演人のサポートがよかったということでしょうか。

檀れいは宝塚を退団したばかりで、一般メディアへは初登場。娘役だったことをいかして、夫を必死で支えようとする武士の妻を好演しました。映画で唯一の悪役である島田を演じる坂東三津五郎も、一見良い人という役柄をうまく演じています。失明した新之丞に剣術の稽古をつける師匠に緒形拳が少しだけ登場します。

ストーリーとしては、比較的最後がわかってしまう当たり前の進行ですが、実際の下級武士が、どのような生活をしていて、どのような悩みを持っていたのかをしっかりと描きだすところは、庶民派山田洋次の面目躍如というところでしょうか。