自分と夫が実際に体験した話をもとに、細川貂々(てんてん)が2006年に発表したマンガが原作。うつ病という、特に現代人に多く見られる精神疾患の理解を深めることができると大変評判になりました。監督は「半落ち」の佐々部清。主演した堺雅人と宮崎あおいはも映画の3年前に大河ドラマ「篤姫」以来の夫婦役となりました。
IT会社でバリバリ働いていた髙崎幹夫(堺雅人)は、あまり売れていない漫画家の晴子(宮崎あおい)と仲の良い夫婦。晴子は夫を「ツレ」と呼び、幹夫は妻を「ハルさん」と呼び、ペットとしてイグアナの「イグ」と暮らしています。
何事にも几帳面なツレが、ある日急に物事に対するやる気が無くなってしまいます。心配したハルさんは病院に行くよう勧め、そこでツレは「うつ病」と診断されるのでした。ハルさんはあらためて日記を見返してみると、最近原因不明の痛みを訴えりしていたことに気がつきます。会社での仕事のストレスが大きな原因になっていることは間違いなく、ハルさんはツレに「会社を辞めないと離婚する」と宣言するのでした。
しかし、会社を辞めても一向に病状は改善せず、ますますツレは内にこもるようになります。ハルさんは家計が厳しくなってきたため、雑誌社で思わず「ツレがうつになりまして、仕事をください」と言ってしまいます。
やっともらった仕事に集中していると、ツレが原稿を見て「髙崎の髙は高じゃなくて梯子髙だよ」としつこく言ってくるので、ハルさんはついついツンケンした物言いをしてしまう。ツレの気配が無いことに気づいたハルさんは、風呂場にこもりタオルを首に巻き付けているツレを見つけるのです。
その後も、一進一退の病状でしたが、「頑張らない」をモットーに療養を続けました。そして、やっと外出できるようになり、久しぶりに同じ日に同じ場所で結婚式を挙げた人々との集まりに参加し有りのままを話すことができました。ハルさんはそれぞれの日記を参考にして、うつ病の夫を主人公にした漫画を描きだしたのでした。
精神科の専門医も、この映画(あるいは原作)は病気の本質をとらえていると考えているようです。自分も医者ですから、「うつ病」の教科書的な理解はしているつもりですが、専門が異なるので実際に患者さんの診療をするわけではありません。文字としては理解していても、実際のうつ病の患者さんが、何を考えて、どうしているのかはわかりませんでしたので、この映画は大変興味深く見ることができました。
一人一人のケースで対応は異なるとは思いますが、うつ病を実際に患っている患者さん、あるいはその家族の方にとっても、病気を理解することに大変役に立ったようです。薬物療法だけで何とかなるわけではなく、特に周囲の人々の患者さんへのアプローチの仕方が本当に重要な病気であるということがよくわかりました。
映画は、当然病気のことを描いていますが、もう一つ大事なことは夫婦の関係性ということ。ツレとハルさんが、お互いを信頼しているだけでなく、尊敬していることが映画ではよく伝わってきます。単純化すれば、そういう夫婦の日常をほのぼのと描いているわけで、どこの家庭にもありそうな普通の幸せを楽しむこともできると思います。