制作はウォルト・ディズニーで、監督は「ミクロの決死圏」のリチャード・フライシャー、撮影は「ローマの休日」のフランツ・プラナー。アカデミー賞では視覚効果賞、美術賞を受賞しました。
時は19世紀なかば、世界の海で謎の巨大怪物が船舶を襲う事件が多発します。海洋学者であるアロナックス教授(ポール・ルーカス)と助手のコンセイユ(ピーター・ローレ)は、怪物の調査をする軍艦に同乗しますが、襲われて船は沈没してしまいます。二人は銛打ちとして乗船していたネッド・ランド(カーク・ダグラス)と共に漂流しているところを、偶然に停泊していた潜水艦ノーチラス号を見つけ乗り込みます。怪物と思われていたのは、この潜水艦だったのです。
ノーチラス号のネモ船長(ジェームス・メイソン)は教授の名声を知っていて、捕らえた三人を命令に服従する条件で客としてもてなすことにします。船の動力は海水から得られた成分から作り出される原子力で、衣食についてもすべて海の中で得られるもので賄われていました。
ネモ艦長は、孤島の収容所で火薬の材料の発掘を強制されていた仲間と脱出し、潜水艦によって戦争に加担する軍艦を破壊し続けていたのです。その歪んだ正義は時に冷酷に多くの命を奪っていました。何とか逃げ出したいランドは、密かにネモ艦長の拠点の位置を書いた紙を瓶に詰めて流します。そのため、ノーチラス号が拠点の島に着いた時、島は軍の艦隊によって包囲されていたのでした。
18世紀後半に、イギリスを中心に産業革命がおこり、人類は農業中心から工業中心の生活に舵を切りなおします。それは、現代において地球規模で危機的な状況を作ることになるわけですが、ヴェルヌはすでに百年以上前にそのことに対する警笛の一つとしてこの物語を書いたのだろうと思います。
各国はいうに及ばず、個人の利益が優先され、自然を破壊する所業に対して、ネモ艦長を通じて強い危機感を表明しています。しかし、一人が声高々にそのことを表明しても、動き出した機械の歯車は止めることはできない。このまま行けば、最後に待っているのは幸福ではなく悲劇なのだと言わんばかりです。
映画は、名優ジェームス・メイソンの好演により、ヴェルヌの伝えたいことがしっかりと描かれているようです。また、若かりしカーク・ダグラスが、血気盛んな、いかにも人間味のある好漢を演じているのもなかなか楽しい。
海中のシーンが多い映画で、当時の技術ではかなり大変だったと思いますが、ミニチュアをうまく利用して現在でもそれほど遜色ないシーンとして完成させたことは特筆に値します。ディズニーの本領を発揮できるアニメーションだったら、ここまでの臨場感は出せなかったかもしれません。70年も前の映画ですが、色あせない海洋冒険物として必ず名前が挙がるのも納得です。