国替えは、主として江戸幕府が行った政策の一つ。大名の領地を、そっくりほかの大名のものと交換することで、勲功による石高格上げの褒章として行われる場合と、懲罰として格下げの場合がありました。
いずれにしても、例えばトヨタ自動車が役員・社員、道具など一切合切を社屋のみ残して日産自動車と交換するようなもので、そりゃ参勤交代どころじゃない手間と経費が掛かりました。
1604に生まれた結城直基は、越前国片粕の小大名でしたが、1624年に越前国勝山藩3万石を拝領し、1626年に親藩として松平姓を許されます。1635年には越前国大野藩5万石に国替え。さらに1644年には山形藩10万石に国替えしています。
1648年には姫路藩15万石に国替えとなり、赴く途中で亡くなったため、息子の松平直矩が家督を継ぎます。しかし、直矩がまた5歳であったため、越後国村上藩に国替えし、成人した1667年にあらためて姫路に国替えしました。しかし、親族のお家騒動の調停が失敗したことにより、1682年に豊後国日田藩7万石に格下げの国替えとなりました。
その後は1686年に3万石増の出羽山形藩、さらに1692年に5万石増の陸奥国白川藩と国替えが続きもとの15万石に復帰することができました。親の代で数回、直矩自身も5回の国替えをさせられたことで、藩内の蓄財はほとんどなく、後世の人から「引っ越し大名」と呼ばれてしまいました。
この映画は、「超高速! 参勤交代」の原作・脚本者である土橋章宏による松平直矩をモデルにしたオリジナル脚本を、犬童一心が監督した作品。基本的な時系列は史実に忠実ですが、藩主直矩を除くと、他の登場人物とエピソードはフィクションです。
姫路藩主、松平直矩(及川光博)は、幕府大老として権力を欲しいままにしていた柳沢吉保にけがをさせてしまったため、8万石減の豊後国日田藩への国替えを命じられてしまいます。以前の国替えの一切を仕切る引っ越し奉行の板倉重蔵は亡くなっているため、書庫番としていつも引きこもっている片桐春之介(星野源)が、本好きで知恵物だろうと新たな引っ越し奉行に任命されます。
春之介は、たださえ引っ越しの仕方なぞわからない上に、今回は石高が半分くらいになってしまうため、予算も相当切り詰めなければならないという難題も加わります。困り果てた春之介は、板倉の娘、於蘭(高畑充希)のもとを訪ね、何か資料は残っていたら貸してほしいと頼み込みます。最初は藩の父親に対する処遇に不満を持っていた於蘭でしたが、春乃介の実直な態度を見て協力することにします。
マニュアルを手に入れた春乃介は、幼馴染の剣の腕は確かな鷹村源右衛門(高橋一生)と共に作戦を開始します。まず家臣一人一人の荷物の半分を捨てさせ、人足を雇わず自分たちで荷物を運ぶことにし、そのために藩士の体力強化も始めました。自らも大好きな本を半分以上破棄することで、藩士らも不平を言うものはいなくなりました。
そして、今回新たにしなければならない最大の難関は2000名いる藩のリストラでした。国替え先では、減石により600名を連れて行くことができないのです。ただ切り捨てては、不満分子を残すだけと考えた春之介は、リストラする藩士一人一人に「ここで百姓になって待っていて欲しい。禄高が回復した際には、必ず復権させる」と約束し頭を下げます。その夜、於蘭にもとを訪れた春之介は、於蘭の腕の中でひたすら泣き崩れるのでした。
いよいよ国替えに出発という時、父が死んで藩と関係がない於蘭は姫路に残るはずでしたが、春之介は於蘭にプロポーズして快諾されます。しかし、道中では国替えだけでは気が済まない柳沢吉保の放った隠密たちが、手ぐすねを引いて襲撃の準備をしていたのでした。
何事をするにもお金が必要なのは今も昔も変わりません。座頭市もマッサージ料を稼いで何とか生きているのだし、子連れ狼だって何か仕事をしないと大五郎を養育できない。そういう裏側を見せるとロマンが無くなるかもしれませんが、現実問題として避けては通れないわけですから、このような着眼点を持っている土橋章宏はなかなかの逸材です。
星野源の持つイメージも、知識はたくさんあってお人好し、そして他人の事ばかり考える人柄という春之介にマッチして、まさに適材適所という感じ。高畑充希も、そういう星野源の相手としてぴったりで、キャスティングのうまさが光ります。深刻な問題ですが、軽妙なユーモアに変えて楽しく見れるニューウェーブ時代劇としておすすめです。