目と口の部分だけ穴を開けた新聞紙を被って、シンブンシと名乗る人物がネットに動画を上げました。世の中の人を人と思わない行為を平然と行う人物を特定し、罰を与えることを予告するのです。
そして、予告通り、食中毒を起こしても誠意ある対応をしなかった会社が放火されたり、飲食店の調理場でゴキブリを調理する様子をネットに配信した人物が、拉致され無理矢理ゴキブリを口に突っ込まれたり、性犯罪の被害者を自業自得とネットで中傷した者が痛めつけられたりしてその様子が配信されたのです。動画に映るシンブンシは、どれもが体格が違い、複数人の一味と考えられました。
これらの事件を受けて、警視庁サイバー犯罪対策課の若きエース吉野絵里香(戸田恵梨香)、部下の市川(坂口健太郎)らは捜査に乗り出し、発信源はインターネットカフェのピットボーイであることを突き止めますが、多くの支店のあちこちからと見せかけて、巧妙にカモフラージュされているのです。
奥田浩明(生田斗真)は、IT会社で働く派遣社員。正社員を夢見て必死に頑張りますが、あまりにひどい扱われ方に絶望し、日雇いの廃品回収業に就くのです。そこで、元ミュージシャンの夢破れた葛西智彦(鈴木亮平)、小太りの寺原慎一(荒川良々)、無口で人見知りの木村浩一(濱田岳)、そしてフィリピンから離れ離れの父親に逢いたい一心で来日したネルソン・カトー・リカルテと知り合いになり、打ち解けていくのです。
しかし、あまりに過酷な労働環境のために、来日費用を捻出するため片方の腎臓を売っていたため体調を崩したリカルテが死んでしまいます。非情な現場監督に対する怒りを爆発させて、4人は監督を殺してしまうのでした。そしてある目的のためにシンブンシとして活動を始めたのです。
時にはLIVEで犯罪行為をネット配信をするというのは、実にネット社会らしい発想。しかも、それに対して「いいね」の評価がしだいに増えて無関係な人々が溜飲を下げるというのも、辛辣に現代の闇を描いているところです。
ただし、あくまでもネット社会は話の組み立てのパズルの一つであって、この映画の本質は別のところにありそうです。不幸な環境にあっても、頑張り続け成功者となった人物として警察側の吉野が存在し、頑張っても報われることがなかった者としてシンブンシ一味が対比されます。結果が違うことで、両者は理解し合うことは難しくなってしまいます。
そして報われなかった者たちは、「たったそれだけのことでも、すこしでも人のためになるなら」どんなことでもやろうと考えるのだということ。できることが限りなく少ない中で、本当にちっぽけな想いを実現するために最大限の努力を惜しまないのです。しかし、それが犯罪であれば、結末には不幸が待っていることは避けられません。
狙いとしてはなかなかよく出来た映画だと思うのは、原作の良さが大きいかもしれません。ただし、原作を知らないと、若い女性がいきなり警察の特殊部隊のトップとして登場することの説明がほとんど無いので違和感が大きい。また、サイバー犯罪対策課と言っておきながら、彼らが主にしているデジタルな仕事は発信地の特定くらいで、結局はアナログな従来の捜査が多いのは残念な所です。