年末年始診療 12月29日~1月5日は休診します

年内は12月28日(土)まで、年始は1月6日(月)から通常診療を行います

2023年9月22日金曜日

るろうに剣心 最終章 The Beginning (2021)

「るろうに剣心」シーリーズ完結編の後編は、がらっと雰囲気が変わり、全編にわたり静かで暗い雰囲気に貫かれています。キャスト、スタッフは当然一緒です。ただし、主役の一人、雪代巴は第1作では渡辺菜月が演じていますが、はっきりと正面から写されるシーンはありませんでした。

幕府を倒し新しい世界を目指す討幕派の暗殺者、緋村剣心(佐藤健)は桂小五郎(高橋一生)の指令によって、大勢の藩士を亡き者にしてきました。

ある夜、夜回り中の藩士らを刀を向けた剣心でしたが、一人、清里明良だけが、「ここで死ぬわけにはいかない」と何度も何度も口にして斬っても斬っても立ち向かってくるのです。剣心は、その時に左頬に初めて刀傷を受けるのです。桂は剣心に心の変化が生じたことに気が付きます。

それからしばらくして剣心が居酒屋にいると、女が入って来て剣心に背を向けて座ります。すると、二人組が女に絡み出したため剣心が助けます。外に出ると先ほどの男たちが待ち伏せしていましたが、剣心は「逃げろ」という間もなく、幕府の隠密が背後から二人を倒し剣心にも襲い掛かります。敵を倒して後ろを振り向くと、先ほどの女が返り血を浴びて立っていました。彼女こそ、清里明良の婚約者だった雪代巴(有村架純)でした。

巴はそのまま討幕派のアジトの宿場で働き始めます。巴は剣心に「新しい世の中のためなら小さな犠牲はしょうがないと思っていますか。あなたもその犠牲の一人ではないのですか」と言い、刀を持っていたら私を斬りますかという問いに対して、剣心は「あなたは絶対に斬らない」と答えるのでした。

その頃、京都では近藤勇(藤木隆宏)が率いる新選組が力をつけていました。配下には斎藤一(江口洋介)、沖田総司(村上虹郎)らがいて、討幕派が集まる池田屋を急襲したりしていました。桂は一時身を隠し、剣心にも巴を連れて京の郊外の空き家に潜伏しているように命じます。

剣心は畑を耕し、巴とのごく普通の生活の中で、しだいに笑顔を見せるようになっていきます。巴も剣心への復讐のため、幕府隠密の辰巳(北村一輝)と連絡を取っていましたが、何と弟の縁(新田真剣佑)が辰巳の使いとして現れたことで、剣心襲撃が近いことを察します。巴は、書き続けていた日記に「あなたは殺した人数より、今後は多くの人を助けるはずだから、私が守ります」と書き残し懐刀を用意して辰巳のもとに一人で向かうのでした。

前編の「The Final」で巴は剣心の刀によって絶命することが描かれていますので、隠すこともないのですが、辰巳の部下との戦いで一時的に目が見えない剣心は、辰巳の攻撃により絶体絶命になります。しかし、巴が辰巳に飛びついて最後の一振りを止め、辰巳ごと剣心に斬られれてしまうのです。

ぼやけた視界に横たわる巴を見つけた剣心は、巴の手にあった懐刀を自ら左頬に当て傷をつけさせます。これは、明らかに巴の復讐心からの解放に外ならず、巴も声にならない声で「ごめんなさい、あなた」と言って息を引き取る。剣心の頬の十字の傷は、ずっと謎でしたが、この完結編でやっと剣心にのしかかっている最も大きな悔恨の謎が明かされることになります。

巴の存在は全作を通じて、物語の隠れキャラとして重要な意味を持っていたわけで、シリーズ随一の地味な展開ですが、ところどころに「らしさ」をうまく埋め込みつつ、剣心が何故「剣心」になったのかを解き明かしてくれます。また、巴に新しい世になったら人斬りをやめると誓った剣心は、最後に第1作冒頭の鳥羽伏見の戦いのシーンで刀を捨てるところに戻ることで、終わりなのに始まるという映画的な処理に感心してしまいます。

2011年に撮影を開始し全5作品が製作され、最後の公開が2021年ですから、スタッフ・キャストは足掛け10年間、この作品にかかわったことになります。主演の佐藤健にとっては、20代のほぼすべてを費やす、俳優としての人気・実力を世間に知らしめる重要な映画シリーズになりました。

この作品の興行的成功は、地味になりやすい時代劇というジャンルで、現代風の感覚を取り入れた新たな楽しみ方を提示し、そしてそれが成功したことが映画界全体に大きな影響を与えたと言えそうです。特にアクションの見せ方は、従来のチャンバラの延長であった殺陣の概念を大きく進化させた功績は見過ごせません。

佐藤健の妥協を許さないアクションは言うに及ばず、仲間を大切に悪と戦うところはアクションRPGの世界に共通する部分ですし、巴を軸にした剣心の頬の傷という全体に横たわる謎をうまく見え隠れさせることで、シリーズ全体の興味を維持させた監督の構成力のうまさも光りました。

原作マンガは一切読んでいませんが、もともとの出来の良さも当然あるとは思いますが、映画として一つの世界を作り上げたことは間違いないと思いますし、今後も繰り返し楽しめるシリーズになったと思います。