70年代から現在に至るまでコンスタントに活躍している歌手の中で、唯一無二の独特の世界観を持ち続けているのが中島みゆきだと思います。
フォークソング畑出身というイメージですが、フォークでもなくニューミュージックでもない。洋楽に染まるわけでもなく、むしろ日本人に自然に備わった感性に訴えかけるところは演歌・歌謡曲に近いものがあるのかもしれません。
ほとんどが自身が作詞・作曲しているわけですが、特に詩の内容を深く聞き取りたくなる珍しい歌手です。言葉の一つ一つに「中島節」とも言える、おそらく誰にも書けない独特さがあって、文学としても成立しているように思います。
1975年、当時アマチュアのシンガー・ソング・ライターの登竜門となっていたヤマハ主催の「ポピュラー・ソング・コンテスト(通称ポプコン)」で入賞し、「アザミ嬢のララバイ」でデヴュー。同年秋のポプコンで「時代」でグランプリを受賞しました。
1976年のファースト・アルバム「私の声が聞こえますか」が発売されて以来、オリジナル・アルバムは2023年の「世界が違って見える日」まで44枚にのぼり、衰えを見せない創作意欲には頭が下がる。そのすべてのアルバムをそろえるだけの価値がある歌手なんですが、あまりに多いのでそんなに簡単なことではありません。
とりあえず、20世紀の中島みゆきをまとめて聞けばよいという方には、ベスト盤の「大吟醸(1996)」と「大銀幕(1998)」の2枚のアルバムがおすすめです。初期のヒット曲と話題になったアルバム収録曲によって最低限は抑えられます。
いやいや、シングル発売曲は全部聞きたいというのなら、「Singles」があります。1987年発売の「I」はCD3枚組(40曲)、1994年発売の「II」はCD2枚組(20曲)で、ほぼ重複はありません。CD1枚(14曲)の2002年発売の「Singles 2000」を加えれば20世紀は網羅できます。
21世紀の作品は、2014年の「十二単 Singles 4」(12曲)にまとめられています。その後の作品と、一部の重複はありますが2016年の「前途」(12曲)を加えれば、必要最小限のキャリアがそろうことになります。ただし、繰り返しになりますが、中島みゆきの本当の魅力はアルバム全体であり、ベスト盤はその一部でしかありません。
最小限で良いというなら2020年発売の「ここにいるよ」というCD2枚組、全26曲というのもありますが、聞きたい曲がたくさん抜けてしまう。ただし、この初回限定盤には、「Nobody is Right」のライブ映像が付いてくるのも捨てがたい。
単なるステージ歌手の他に独自の音楽劇を演じる「夜会」シリーズも、中島みゆきの世界観を知るためには重要ですが、これはビジュアルが大事。いくつかはDVDも出ていますが、現在ではブレミア価格になっていて手に入れにくい。
そこでヴィジュアルとしては、3つのコンサート映像が入手しやすい。「中島みゆき"縁会"2012〜3」は比較的ヒット曲中心のライブ、「中島みゆきConcert"一会"2015〜2016」は本人がヒット曲よりも一番伝えたい曲を中心としています。そこで、もう少し古くはなりますが「歌旅 -中島みゆきコンサートツアー2007-」を強くおすすめします。
「歌旅」は、ヒット曲と知られざる名曲のバランスが良く、ライブの楽しさがとても伝わってきます。ただし、このDVDに漏れた数曲が、10年たって「Live Request 歌旅・縁会・一会」の限定盤にDVDとして付属しています。是非、あわせて見て欲しいと思います。