青春スポ根映画ですが、何と珍しいことに舞台は「箱根駅伝」です。
正式には「東京箱根間往復大学駅伝競走」と言いますが、毎年1月2日の大手町から芦ノ湖までの往路、1月3日の復路は、もう正月の風物詩として無くてはならないものになっています。約217km、10区間を大学生が走るだけですが、見ているだけでも多くのドラマを感じることができるので、熱狂的なファンも少なくありません。
原作は三浦しおんによる小説で、脚本・監督を大森寿美男、音楽は千住明が担当し、実にリアルな箱根駅伝を再現していて、駅伝ファンならずとも感動できること請け合いです。
都内にある寛政大学の駅伝部は弱小を絵に書いたような集団で、今にも朽ちそうな竹青寮で集団生活をしていました。彼らのリーダーで、ほとんどの食事の世話や掃除などもするのが4年生になる清瀬灰二(小出恵介)でした。
灰二は厳しい父親が監督する高校陸上部で膝を痛めてしまい、実力があったにもかかわらず表舞台から遠のいていたのです。しかし、走るということの意味を知りたくて、ひそかに計画していたことがあったのです。
力強い走りができる新入生の蔵原走(林遣都)を見つけた灰二は、無理やり彼を竹青寮に連れ込みます。そして、やっと10人が揃ったことで、全員で箱根駅伝への出場を目指すと宣言するのでした。
神童と呼ばれる杉山(橋本淳)は、地方出身で山道を往復して通学していました。王子と呼ばれる柏崎(中村優一)は、マンガオタクで体力には自信がない。双子の城兄弟(斎藤慶太、斎藤祥太)は陽気な兄弟。岩倉(森康)は、すでに司法試験に合格している秀才。坂口(内野謙太)はクイズ番組好き。ムサ(ダンテ・カーヴァ)はアフリカからの留学生。そして最年長の平田(川村陽介)はヘヴィスモーカーです。
しかし、蔵原は最初はこんなメンバーで勝てるわけがないと反発し、衝突するのです。彼は高校の時に高圧的な監督を殴ってから、選手としては活躍できていませんでした。しかし、メンバー全員が灰二の想いを理解し、それぞれが努力を始めることで次第にチームとしての実力をつけていくのでした。そして、ぎりぎり予選会を突破したチームは、いよいよ本番を迎えます。
さすがに、いきなり優勝というようなあり得なさすぎる結末は用意されていません。現実的で妥当な、でも満足できる結末は好感が持てます。
物語は4月から翌年正月までの約10か月の話で、1本の映画にまとめるには多少無理があり、話の展開が拙速な感じで、本来はテレビ・ドラマ向けのように思います。ほとんどやる気がなかった駅伝部のメンバーがその気になる過程も簡単すぎるし、ライバルたちとの関係も表面的です。
それでも素材がよく知られているものなので、見ている者が自然と間のストーリーを想像できることにかり助けられている面がありそうです。監督もそのことを承知ではしょっているのかもしれません。
なにしろ箱根駅伝のシーンが良い。本物を見ているような臨場感があり、自然と普通に応援してしまうようになります。なんとか大手町まで帰って来いよ、と願わずにはいられないのは作り手の上手さということと評価できます。少なくとも、駅伝、特に学生駅伝のファンにはちゃんと突き刺さる良作といえそうです。