2001年に発売された「盲導犬クイールの一生」は、1986年に生まれたラブラドールレトリバーのクイールが、「生みの親」、「育ての親」、「しつけの親」を経て盲導犬に成長し、1998年に亡くなるまでを、写真(秋元良平)と文章(石黒謙吾)で綴り、ベストセラーになりました。
2003年にNHKでドラマ化され、翌年映画版も公開されました。監督は松田優作のボディガードをしていた崔洋一、脚本は松田優作の盟友だった丸山昇一と当時崔の助監督だった中村義洋です。
5匹のラブラドールの子犬が産まれ、飼い主(名取裕子)は是非盲導犬にしたいと盲導犬協会に願い出ます。おなかに鳥が羽(クイール)を広げたようなブチがある一匹が、パピー・ウォーカーである仁井夫妻(香川照之、寺島しのぶ)に託され、人間との信頼関係を作るため「絶対に怒らない」環境で育てられます。
1歳の誕生日に、クイールは仁井夫妻のもとから訓練センターに連れて行かれます。訓練士の多和田(椎名桔平)は、マイペースなクイールに手こずりながらも、クイールの盲導犬としての資質を理解していくのです。
クイールをパートナーにすることになった渡辺満(小林薫)は、糖尿病で失明した頑固者で、はじめは犬に引っ張られるのは御免だと拒否しますが、次第に「クーちゃん」と呼び信頼するようになります。しかし、渡辺の家族にとってはクイールはペットであり、接し方を巡って小さなトラブルが頻発します。
3年目に、渡辺の糖尿病が悪化し透析が始まり、渡辺はクイールと街を歩くことができなくなりました。クイールは訓練センターに戻され、盲導犬のデモンストレーションをする役目をこなしていましたが、渡辺が亡くなったため盲導犬を引退することになります。
クイールは10歳の老犬となり、余生を過ごすため再び仁井夫妻のもとに帰り、大事にされて12歳の生涯を閉じるのでした。
日本の盲導犬の育成をする施設は多くはありません。その中でも、最も大きな施設が横浜市港北区新吉田町にある日本盲導犬協会の神奈川訓練センターです。地理的に近いため、港北ニュータウンでも実地訓練が行われていることが多く、その様子を見かけることがときどきあったりします。
視覚障害者のためのサポートとして、点字ブロックの埋設や音による注意喚起などは、珍しくはありませんが十分とは言えず、盲導犬を必要としている障害者の方は大勢いるそうです。しかし、犬の適性の問題から、実際に活躍できる盲導犬の供給はまったく足りていないのが実情です。
この映画は、クイールをモデルとして盲導犬がたどる一生をわかりやすく描いて見せてくれています。物語としての起伏や感動は必ずしも大きなものではありませんが、盲導犬を育てることの大変さの一端を理解する助けとなることは間違いありません。
健康が当たり前と考えがちですが、障害者の方が少しでも「普通」に生活できるためのパートナーとしての盲導犬の重要性を知るきっかけとして、原作の書籍やこの映画などを色褪せさせないことが大切だと思いました。