2025年5月26日月曜日

猫は抱くもの (2018)

大山淳子による5編の連作短編集が原作ですが、それぞれの話のモチーフを用いて犬童一心監督がオリジナルのストーリーを組み立て、高田亮が脚本を担当しました。ファンタジー色が強い、独特の世界観で展開する不思議な作品です。

大石沙織(沢尻えりか)は、昔アイドルグループの一員で端であまり目立たない存在でした。あまりパッとしなかったグループが解散後は、スーパーのレジの仕事をして、裏の倉庫で密かに良男と名付けた猫(吉沢亮)を飼っていました。毎日のどうでもいいことを良男に話をしている時が、沙織は一番心が休まる時間だったのです。

スーパーの本部の高橋(柿澤勇人)に誘われるようになった沙織は、良男と過ごす時間が減ってしまったことが、自分は人間で沙織の恋人だと信じている良男には不満でした。しかし高橋は沙織が元アイドルだということだけで近づいただけで、本命の彼女は別にいたのです。

グループが解散した時も、プロデューツーのササキ(柿澤勇人)に遊ばれましたが、それきりで仕事はもらえなかったことを沙織は思い出します。辛そうにしている沙織を見ていて、良男はどうすることもできない自分の不甲斐なさから倉庫を飛び出し、川に落ちてしまいます。

気がつくと、良男は野良猫のたまり場にいました。そこで、絵描きのゴッホ(峯田和伸)の飼い猫キイロ(コムアイ)と知り合います。ゴッホがキイロばかりを可愛がるので、面倒を見ている女子高生が捨てたのです。沙織とゴッホは、良男とキイロを探すのですが見つけることができません。

沙織のもとに、特番のためにグループを一夜限りで復活したいという連絡があり、沙織はテレビ局に出かけていきます。しかし、ササキにはまったく見向きもされず、バラエティ番組であまりのひどい扱われ方に心は砕け散ってしまうのでした。

実に凝った構成の映画で、ロケでの撮影による部分が全体の1/4程度で、ほとんどが劇場の舞台で進行します。小道具もいかにも芝居用という感じでリアリティはありません。そして、何よりも混乱するのは、猫は擬人化され俳優たちが人間の格好のママに演じているのです。

その俳優たちは、それぞれがちょっとずつ登場する人間の役もやっているのですから、とにかく設定に慣れるのに一苦労します。その最たるものが吉沢亮の良男ですが、沢尻エリカに膝枕をしてもらい頭を撫でられるのは、まさに沙織が猫を愛でていることになります。

とにかくラストに向かって、そんな擬人化された猫、あるいは擬猫化された人間が入り乱れるのですから、正直、何が何だかよくわからない。よくわからないのですが、その勢いに巻き込まれて、猫は人の孤独の隙間を埋めることができるんだろうなと感心してしまうのでした。