2025年5月16日金曜日

ねことじいちゃん (2019)

原作はねこまきによるコミックエッセイで、「家に帰ると妻が死んだふりをしています」の坪田文が脚本、動物写真家の岩谷光昭が初めて監督を務めています。舞台は愛知県の名古屋のすぐ沖合にある佐久島です。

島で教師を引退し妻(田中裕子)に先立たたれて一人で暮らす春山大吉(立川志の輔)は、飼い猫のタマと悠々自適の生活をしていました。友人は巌さん(小林薫)、高齢のおしゃべり仲間にはサチさん(銀粉蝶)、トメさん(小林トシ江)、そしてトメさんといつも喧嘩ばかりしているたみこさん(田根楽子)などがいました。

ある日、町から引っ越してきた猫好きの美智子(柴咲コウ)が、島でカフェを開きました。カフェはしだいに年寄りの寄り合い場所になり、皆の楽しみが増えました。診療所の若先生(柄本祐)、郵便局ではたらく聡(葉山奨之)ら若者も美智子目当てに出入りしていました。

大吉は、妻の残した書きかけのレシピノートを見つけると、空白のページを埋めるために、美智子や仲間の手を借りて料理に挑戦するのでした。息子の剛(山中崇)は、猫も連れてきていいから一緒に東京で暮らそうと何度も何度も連絡してきます。

聡はみんなが楽しめるイベントをやりたいと美智子に相談し、学校の体育館を借りてダンスパーティを開くことになりました。サチさんは、昔の巌との秘めた思い出があり、心からパーティを楽しみました。引きこもりのたみこをトメさんは強引に誘い出しますが、二人は互いに文句を言いながらも楽しいひと時を過ごすのでした。しかし、それから間もなくサチさんが亡くなってしまうのです。

とにかく、タマをはじめたくさん登場する猫たちの演技達者ぶりには脱帽です。さすが、動物写真のプロを監督に起用しただけのことはある。言ってみれば人間も動物ですから、岩谷監督は初めてにしては美しい風景を織り交ぜながら、人々のさりげない交流の機微をうまく映像化していると思いました。

大々的にすごいことを描いているわけではありませんが、ちょっとした人情、猫情がほのぼのとした雰囲気の中でストーリーに埋め込まれていて、猫好きではなくてもたいへん楽しめる作品になっていると思います。