21世紀になって、日本の映画界でも女性の監督が元気になってきました。例えば今年50歳となるタナダユキもその一人。蜷川実花の監督作品「さくらん(2007)」の脚本で注目され、2008年の「百万円と苦虫女」の監督・脚本で一気に名前が知られるようになったと思います。
近作は「浜の朝日の嘘つきどもと(2021)」、「マイ・ブークン・マリコ(2022)」がありますが、本作は2015年に、監督が始めから元AKB48の大島優子をイメージして脚本を当て書きしたもの。小田急電鉄が全面協力した、箱根を舞台にした小さなロード・ムービーです。
北條鉢子(大島優子)は、小田急の特急ロマンスカーの車内販売員、いわゆるアテンダントの仕事をしていて、その成績は優秀です。しかし、恋人はいるものの、そのだらしがない生活ぶりに幻滅し始めていました。今日は仕事をしていると、乗客がこっそりとワゴンの商品を抜き取ったのを発見します。
終点、箱根湯本でその万引き男を駅事務所に連れていくと、桜庭洋一(大倉孝二)と名乗る"おっさん"は、逃げだすのでした。鉢子は追いかけて捕まえますが、おかげで乗務するはずだった帰りのロマンスカーは出発してしまいます。しかたがなくホームで次の列車を待つ鉢子は、今朝ポストに入っていた母親からの手紙を取り出し、一読するとゴミ箱に捨てます。
それを見ていたおっさんは、手紙を拾い上げ読んでしまいます。そして、鉢子にこの手紙を書いた人はこれから死のうとしているのだから、探して死ぬのを止めようと言い出すのです。鉢子の両親は鉢子が小学生の時に離婚していて、以後母親は男手入りの激しい乱れた生活をしていたのです。それでも、母親にとっても鉢子にとっても、唯一の楽しい思い出は箱根への家族旅行でした。
何もしない後悔より、何かしての後悔の方がましだと言うおっさんの強引さに負けて、鉢子はかつての旅行の行程を辿ることになります。小田原城からスタートして、箱根登山鉄道に乗り、大涌谷でくろたまごを食べ、仙石原のすすきを楽しみながら、鉢子とおっさんはどちらともなく身の上をお互いに話していくのでした。
回想シーンを除くと、ほとんど大島優子と大倉孝二の二人芝居のような映画。一瞬の登場だけのだらしがない彼氏は窪田正孝、上司は昨年急逝した中村靖日。タイトルからして、恋愛物かと思ってしまいますが、大島優子と大倉孝二の組み合わせではそんな甘いことにはなりません。
この二人を通して、後悔していることをどうやって消化していくのか、あるいは後悔しないためにどのように行動すればいいのかといったことを「ぬる~く」考える内容になっています。舞台が神奈川県民にとっては馴染み深い箱根が中心になっているので、より物語の中に入り込みやすくなっているのが楽しい所。
ワン・シーンが長回しになっているところが多く、だからと言ってやたらのセリフが多いわけではありません。一つのシーンをじっくりと見せて、見ている側がさらに映画の中にどっぷり漬かれる間合いを作っているように思いました。やりすぎると「間延び」してしまいますが、そこのバランス感覚がこの監督の持ち味なのかもしれません。
