2008年1月19日土曜日

2008年のリウマチ戦略

関節リウマチの治療戦略は激変の時代にあり、1999年のメソトレキセート(リウマトレックス)という免疫抑制剤の登場に始まり、2003年の生物学的製剤と呼ばれる新しいタイプの薬の導入により戦国時代化してきています。

さらに抗CCP抗体およびMMP3という検査項目が保険適応となり、診断をするための材料も大きく変わろうとしています。もちろん、患者さんから見れば歓迎すべきことであって、より治癒に近づくことが可能となったといえます。もちろん、そのためには副作用というリスクもこれまでと同様に伴う覚悟が必要です。

医者の側からすると、場合によっては混乱のさなかに放り出されたようなところがあることも事実であり、これらの急展開について行くためには相当の努力が要求されているのです。当然、学生のときに習った数十年前の知識の大多数が役にはたちません。特に、この10年間で急速な進歩を見せた遺伝子レベルの医学知識を基にした最新の知見は、従来の常識を大きく覆していると言っても過言ではありません。さらに、社会から要求される成果と責任が、無制限に肥大化していることも無視できません。発症する年齢の高齢化も現実には起こっており、治療リスクの増大した患者集団に対しての治療方法の選択は困難を極めています。

さて、ここからは現実的な話に戻りましょう。自分はクリニックの医者であり、学問として医学の研究者(programmer)ではなく、実践的な医術の施行者(application user)です。もちろん、知識の探求欲がまったくないわけではありませんから、一部研究的な気持ちが顔を出す部分はないとはいえません(mania)。

現在できることは大病院でもクリニックでもさして違いはありません。つまり、ほとんどの関節リウマチの患者さんは、多発関節痛という初発症状により医療機関を受診することになります。一部は、健康診断などで検査の異常値を指摘され専門医への受診をすすめられます。その中から、本当にリウマチなのか否かを見極めることになりますが、リウマチ専門施設では数10%、クリニックてせは数%の患者さんがリウマチであろうという印象を持っています。

従来はアメリカの学会が作った分類基準が唯一の診断のよりどころでしたが、確かにこれを満たせば確定的といえるものの、早期発見には無理がありました。そこで、日本のリウマチ学会による早期基準、そして(非科学的ではありますが)医者の経験からくる「カン(あるいは推理)」が導入されてきたのですが、やはり副作用のリスクの高い薬剤の使用に踏み切るには根拠として弱すぎると思われます。

そこへ登場してきだのが、MMP3という検査であり、より病気の勢いに比例した動きをすることから、より確信を持つことができる要因になりえます。さらに昨年から保険適応となった抗CCP抗体検査は、それまでのリウマチ反応と呼ばれている診断的には必ずしも役に立たない検査と比べ、かなりの診断精度を上げることができると考えられています。実際に自分の「カン」とも比例することが多く、薬物療法を開始する根拠として、非常に重要であるという印象を持っています。

またレントゲン写真も、従来のフィルムでの閲覧と比べると、デジタル化したコンピュータ上では画像のコントラストなどの条件を容易に変化させることで、微細な骨変化や周囲の組織の腫れ具合もキャッチすることが可能になってきました。さらにMRI検査の画像がもっと簡単にできるようになれば、診断への寄与は大きく増大すると思われます。

これらの客観的なデータをしっかりとベースにおいていれば、診断上最も大事な臨床症状(患者さん自身から見えてくる情報)と医者の主観的推論が、科学的な根拠として通用するようになるのです。今年は複数の新たな生物学的製剤が登場する予定ですので、治療面ではさらなる変化が起こる可能性があります。だからこそ、既存の治療法についてはさらにしっかりとした評価を下すことが大切であり、よりいっそうの努力が求められると考えています。

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