人工関節置換術というのは、もう数十年の歴史があり整形外科手術手技としてはほぼ確立した治療法の一つと言うことができます。
ただし、それは膝関節と股関節についての話で、その他の関節については試行錯誤の段階がいまだに続いており、まだまだ研究・開発の途上なのです。
その中で、ある程度実用化されているものが肩関節・肘関節・足関節、そして指関節というところでしょうか。実用化というのは、それなりの制約のもので有効であるという意味で、どの医者でも積極的に患者さんには勧めていないということです。
膝関節や股関節については、以前は20年程度の耐用年数で、若いうちに手術をすると再手術の必要性があるため、一般的には60歳代以降に行われるのが基本とされてきました。しかし、今では初めて行う場合の機種もよくなり、また再手術用の機種も整備されているので、もっと若いうちに手術をしてもあまり問題はないようになっています。
実際、関節リウマチの患者さんは若いうちから高度の関節の破壊が進むことがありますから、年を取るのを待ってというような悠長なことは言っていられません。結局、術後の生活に十分気をつけてもらえれば、若い方でもより生活のレベルを上げるための有効な手段として重宝するのです。
特に下肢の関節の障害は、歩けなくなるという恐怖がつきまといますから、人工関節は患者さんにとっては福音となる手段なのです。一方、上肢はそれに比べると、痛みさえ我慢できればそれなりに何とかなってしまうという部分があって、患者さんも積極的に人工関節を希望しないことが多い。
手首と足首の関節は、実際のところ大きく動かなくても生活に支障が少ない関節ですから、装具(サポータ)で外から固定してあげることで、かなりの部分は何とかなるものです。足関節の人工関節は実用化されている物が少なく、手術ができるタイミングもかなり限定されていて、最も手術の頻度の少ない物ではないでしょうか。
手関節の人工関節は、いろいろ出ては消えの連続で、いまだに安心して患者さんに勧められる物はありません。手や足の指についてはシリコンの人工関節風のものが使われ、それなりに効果が出せますが本格的な物はほとんど無いと言っていいような状況です。
リウマチの患者さんは、薬の治療が大変良くなったので、以前に比べて関節破壊に至ることが少なくなったため人工関節手術が減っています。しかし高齢化社会となって関節が高度の変形で生活を余儀なくされるお年寄りが増えてきていることで、老化した関節の手術を考えることが増えてきているのです。
高齢者に対して手術を行うことは、より手術のリスクということも考えなければいけません。また、リハビリテーションが大事な手術ですから、そこまで含めた術前・術後の計画がより重要になってきていると言えるでしょう。
年をとっても、簡単に引退してゆっくり暮らすなんてことがだんだん難しくなってきている今の日本ですから、生活の質を維持していくためには人工関節置換術も一つの方法として考えることが多くなっています。
今後はますます研究がされて、より完成度の高い人工関節がいろいろな関節用に登場してくることでしょう。その究極の姿がアンドロイドということになるのでしょうが、とりあえずここ何年かはそんなSF的なところまでは行くことはないでしょう。