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2010年9月29日水曜日

関節リウマチ新薬

関節リウマチという病気が、自己免疫性疾患(自分の体に対して自分でアレルギーを起こす病気)の一つという位置づけであることがわかって、免疫を調節することが治療につながると考えられるようになったのは20世紀末のことです。

それほど古い話ではありません。しかも、その具体的な治療薬で現在もアンカードラッグ(中心となる薬)として使われているメソトレキセートがリウマチ薬として市販されたのは1999年のことですから、わすがに11年前でした。

当時、抗がん剤として利用していた自分たちとしては、なんで抗がん剤がリウマチに効くのか耳を疑ったものでした。メソトレキセートは細胞が増えるときに必要なDNA、つまりどんな細胞に分化するかを決定する遺伝子の材料となるRNA合成を阻害する薬です。

細胞が活発に増殖しているがんの場合には、細胞増殖を抑制することから抗がん作用が期待できるわけです。リウマチでも異常な免疫を起こす細胞が増えることを押さえることが効果につながるわけです。

その後、2003年からは生物学的製剤と呼ばれる「特効薬」のように強力な効果が期待できる薬か登場し、リウマチ治療は飛躍的に向上しました。生物学的製剤は、異常な活動をする免疫細胞から産生されるサイトカインと呼ばれる伝達物質を攻撃する薬です。

サイトカインが関節の中で、直接炎症の主役級の働きをすることが、リウマチの本質であることがわかってきたので、直接サイトカインを叩くことができれば、劇的な治療効果がえられるわけです。

山の頂上から、リウマチという湧水が流れ出ている状態を想像してみてください。湧水は川となって海に注ぎます。海に流れ出た分が、病気としていろいろな悪さをしているのです。

免疫抑制剤は、より源流に近いところで作用しますので、ちょうど湧水の出口を手でふさいで蓋をしているような感じです。しかし、指の間から湧水は漏れてしまうので、ある程度は海に注いでしまうのです。

生物学的製剤は海に流れ出す手前で、ポンプですべてを吸い出しているようなもので、より効果的ではありますが、本質的にリウマチの勢いを押さえ込んでいるとは言いにくいかなと思います。

さて、製薬会社はこの生物学的製剤と呼ばれる新しい薬の開発を各社が競争で行っており、次から次へと新しいものが登場する戦国時代となっていて、自分たちもどんどん知識をアップデートしないとすぐに置いていかれるような状況になっています。

今年の暑い夏に、新たな生物学的製剤が登場しました。オレンシア(アバタセプト)と呼ばれるものですが、これは、今までのものとはちょっと趣が異なります。ターゲットがサイトカインではなく、サイトカインを産生する免疫細胞なのです。

つまり、海の手前で川の水をすべて吸い出しつつ、頂上の水の湧き出し口も塞いでしまおうという薬と言えます。そう考えると、より根本的な治療薬ということができるかもしれません。

今の日本の保険医療の縛りの中では、最初に使っていいのがメソトレキセートよりも古い内服薬。それが駄目ならメソトレキセート、そしてそれも駄目なら生物学的製剤という順番があります。

近いうちに第一選択薬として生物学的製剤が使えるようになるのでしょうが、さらに生物学的製剤のなかでも第一世代といえるサイトカインをターゲットにする薬が一番目で、別のターゲットの対するものが二番目というように使用していく順位付けがはっきりしてくると思います。

現在までの生物学的製剤はすべて注射薬ですが、内服で使えるものが現在開発中という状況であると耳にします。内服薬が登場すれば、順位はまた大きく動くことになると考えられます。まだまだ、どんどん治療戦略も変わっていくわけで、なかなか気を許すことができません。