ザビーネ・マイヤーのクラリネットは、非常に伸びやかで温もりを感じられる・・・というと、何か当たり前のような褒め方。クラリネットなんだから、それが当たり前と言ってしまえばそれまでですが、その当たり前が聴いていて気持ちがいいわけです。
ベルリンフィルとの軋轢があった時に、ベルリンフィルの首席クラリネット奏者はカール・ライスター。確かに稀代の名手であり、ライスターのクラリネットの力はたいしたものなんだろうと思います。
ライスターのクラリネットは、まさに超重量級戦車と呼ばれるベルリンフィルの中で、全体に負けない力強さが印象的。室内楽よりも、オーケストラの中で際立つ印象があります。
そういう意味で、マイヤーはどちらかというと室内楽や独奏のほうが向いているのかもしれません。とは言っても、クラリネットを主役にした音楽はそれほど多くはありません。
クラリネット・ソナタ、クラリネットを含む小規模編成、クラリネット協奏曲ということで名曲を探してみても、モーツァルト、ウェーバー、ブラームスの三人で、ほとんど網羅されてしまう。特にモーツァルトは、もともとの作曲数が膨大ですから、クラリネット絡みの曲数は多いほう。
そこで、モーツァルトの少人数のクラリネット曲を網羅したこのアルバムは、ザビーネ・マイヤーのクラリネットを最も楽しめるベスト盤と言えるかもしれません。もともと80年代後半に録音された別々のCDでしたが、カップリングされて登場し、ずっと廉価盤も登場し続けているベストセラー。
後から発売された廉価盤でもよかったのですが、ジャケット写真が統一された格安シリーズになっていてつまらない。今回はUSAアマゾンで、なんと1991年発売のオリジナル・リリースが新品格安で手に入りました。
兄のヴォルフガング・マイヤーとの共演する3本のクラリネットによるディベルトメントは見事で、とても優雅な響きが素晴らしい。クラリネット五重奏も、数あるこの曲の演奏のなかでも、一押の演奏ではないかと。
かまえることなく、ゆったりとしたときを過したいときにぴったりの音楽として、是非推薦したい名盤じゃないかと思います。