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2021年9月24日金曜日

セコンド (1966)

この映画には「アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身」という副題がついていることからもわかるように、一人の男の人生が全く別の物に変わってしまうというある種のSF。「セコンド」という読みだと「秒」かと思ってしまいますが、これは「二番目(の人生)」のこと。


カラー撮影が普通になった時代に、あえて白黒で撮影し、特異なカメラワークやサスペンスを強調する効果音や音楽を多用しています。監督はまさにそういう職人肌を持つジョン・フランケンハイマーで、音楽はジェリー・ゴールドスミス。タイトルバックは、ヒッチコックとの仕事で有名なソール・バスが担当しています。

銀行員の中年男、アーサー・ハミルトン(ジョン・ランドルフ)は、通勤の途中で見知らぬ男から住所の書かれたメモを渡されます。そして、死んだはずの親友から電話がかかってきて、必ずその住所に来てくれと頼まれるのです。不審に思いつつも出かけてみると、謎のビルに導かれ薬で眠らされてしまいます。

目を覚ますと、男が説明します。死体を調達して死んだように手配し、あなたは整形でまったく別の人間に生まれ変わるというもの。契約書へのサインを渋るハミルトンに、男は寝ている間に女性に暴行を働くところを撮影したものを見せます。さらに老人が登場し、後戻りはできないのだ、今の人生に執着する理由があるのかと尋ねます。そして、ハミルトンはサインをします。

整形手術とトレーニングによって、ハミルトンはトニー・ウィルソン(ロック・ハドソン)に変身し、アメリカの中年男性の誰もが欲しがる「自由」を手に入れたのです。マリブの家が用意され、空港では見知らぬ男に親し気に挨拶され、家には世話をする執事のジョンがいました。

ある日、海外で散歩をして近所のノーラ(サロメ・ジョーンズ)と知り合いになり、あなたは鍵を開けるかどうか悩んでいるみたいだと言われます。二人は、近くの開放的な雰囲気のワインの祭りに参加し、裸でブドウ樽に入って踊る人々に混ざって騒ぐのでした。

鍵を外したウィルソンは、近所の人々を招いたパーティを催しますが、酒を飲みすぎて大騒ぎをしてしまい、ついに「俺はハミルトンだ」と叫んでしまいます。実は集まった人々は、すべて二度目の人生を手に入れた人々であり、親しくなったノーラ・・・実は、ウィルソンを環境に適応させるたるのスタッフ・・・にも、「あなたは自分が何者かわかっていない」と叱責されてしまうのです。

ウィルソンはマリブを抜け出し、かつてのハミルトンの家を訪ねます。ハミルトンの妻は、彼は正直で勤勉で無口、ずっと死んだも同然だったのかもしれないと話します。最初のビルに戻ったウィルソンは、ウィルソンを消去して今度は自分の判断で別の人物になりたいと希望しますが、そのためには別の誰かを紹介する必要がありました。誰もあてが無いと言うと、ウィルソンは誰かの代わりの死体として運ばれていくのでした。

前半はハミルトンが混乱の中で自分を捨てる決意をするまでが描かれ、まったく予想できない事態に巻き込まれた普通にいそうな中年男のスリルが描かれます。後半はすべてを捨て新たな人生を踏み出しはずなのに、そこに適応できない苦悩と末路が、さらなるスリルと共に提示されます。

この重苦しい雰囲気にもかかわらず、映画としてエンターテイメント性をしっかりと出しているところは、監督の力だろうと思います。俳優としては、ロック・ハドソンが有名ですが、ハミルトンを演じたジョン・ランドルフも、赤狩りで干されていたのがこの映画での好演により、この後活躍しました。

実際に身近に起こることは想像できませんが、人生をリセットしたいとか、新たな人生を歩んでみたいという願望は口にしないまでも、誰しも心のどこかに持っているものです。しかし、記憶までもリセットしない限りは、まったくの別人になることは不可能なのでしょうし、この映画のような方法は仮面を被って密かに暮らすようなもので、最終的に待ち受けるのは悲劇でしかありません。

どうです? あなたは、人生をやり直してみたいですか?