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2023年2月6日月曜日

Antje Weithaas / Bruch Complete Violin Concertos (2013-15)

音楽界には、一つだけある大ヒット曲だけで一生活躍しているような、いわゆる「一発屋」と呼ばれる人たちがいますが、クラシック音楽の作曲家にも似たような存在があったりします。

例えば、ハッチャトリアン。必ず小学校の音楽の授業とかで「剣の舞」を聞かされたと思いますが、何だかテンポの速い威勢の良い曲で妙に耳に残る。でもハッチャトリアンって、それ以上知っている人はまずいない。ロシアの人で、1903年生まれで亡くなったのも1978年ですからけっこう最近の人。

イギリスのホルスト(1874年~1934年)はどうでしょうか。はっきり言って、組曲「惑星」、それもその中の「木星(ジュピター)」しか知られていません。クラシック好きでも、その他の作品を一つでも知っていたら拍手喝采物です。

マックス・ブルッフも、そんな一曲だけが有名な作曲家の一人。何故か、「ヴァイオリン協奏曲第1番」だけは、演奏しないヴァイオリン奏者を見つけることは至難の業と言えるくらい、必殺の有名曲です。

ブルッフは1938年、ケルン生まれのドイツの人。同時代人にはブラームスがいて、当時のドイツの音楽界は、はワーグナー派とブラームス派に分かれてかなり敵対していたらしい。ブルッフは、終生、ブラームスを兄貴分として敬愛していました。

非常に魅力的なメロディを生み出す人で、ところどころに印象的なフレーズが散りばめられ、ムードだけに流されないところが良いと思います。以前にも室内楽で取り上げていますが、あまり知られていないのが残念な作曲家です。

ヴァイオリン協奏曲も「第1番」と言うくらいですから、実際2番、3番がある。やたらの「Complete Edition」とかばかり作っているレコード会社なんだから、1番出すなら全部で企画しそうなものですが、たいてい他の作曲家のヴァイオリン協奏曲との抱き合わせのアルバムばかりが登場しています。たぶん、今までに全部録音しているのはイ・ムジチ合奏団で有名なアッカルドだけじゃないかと思います。

となると、そういう仕事はマイナーなレーベルに期待。室内楽も出していたドイツのCPOレコードは、そういう期待に応えてくれるので要チェックです。サンチェ・ヴァイトハースという女性奏者がCD3枚で、協奏曲および関連作品を取りまとめてくれました。

しかも、最初に登場したのが1番じゃなくて2番というのも勝負かけている感じです。そのかわり、一緒に収録されているのは多少知られている「スコットランド幻想曲」ですから、ブルッフに興味がある者には嬉しい。

オーケストラも北ドイツ放送フィル、通称NDRで手堅い布陣です。指揮者のヘルマン・ボイマーは、元々アバド時代のベルリンフィルでバストロンボーンを吹いていた人。バラバラに順次発売されたものが、まとまった物が安く手に入ります。

第2番は、叙情的な1番と比べると迫力があって劇的な雰囲気。「ツィゴイネルワイゼン」の作曲者として有名なサラサーテのために作られ、独奏サラサーテ、指揮ブルッフで初演されています。第3番になるとオーケストレーションがさらにしっかりしてきます。いずれも第1番の影に隠れてしまっているのがもったいない。

ブルッフは、交響曲や合唱曲も作っていて、全体の曲数はそれほど多くはありませんから、是非「Bruch Complete Edition」を作ってもらいたものです。