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2023年2月10日金曜日

Andrew Manze / Tartini Devil's Sonata (1997)

17世紀のヨーロッパの音楽の中心はイタリアであったことは間違いなく、テレマン、ヘンデル、そしてJ.S.バッハらによってドイツ・バロックが隆盛を迎えるのは17世紀末の話。イタリアでは、今でも人気を誇るのはバロック前期ならモンテヴェルディ、バロック後期ならヴィヴァルディ、古典になるとパガニーニとかです。

有名人の影に隠れて、「知られざる作曲家」はいろいろいるわけですが、ヴィバルディとほぼ同世代に修道僧でありヴァイオリンの名手といわれたのがジョゼッペ・タルティーニでした。

タルティーニは1692年にヴェネチアに生まれ、研究熱心な理論派のヴァイオリン奏者でした。作曲家としては、ヴァイオリン曲だけが残されていて、当時の重要な仕事だった教会音楽や歌劇は作っていないようです。ただし、出版された協奏曲は125曲もあるというから驚きです。

中でも、ほとんど知られている唯一の曲が「ヴァイオリン・ソナタ ト短調」で、通称「悪魔のトリル」と呼ばれる曲。原題でも 「Il trillo del diavolo」で、そのまんま。

なんでも、寝ていたタルティーニの夢に悪魔が出てきて、ハッとする素晴らしい旋律を奏でたので、目が覚めたタルティーニはすぐに楽譜に起こしたという逸話が残っています。悪魔のように難しいトリルが出てくるということではありません。

トリルはヴァイオリン奏法のテクニックの一つで、半音または一音上の音を指で細かく混ぜて弾くこと。聞いていると「ティロリロリロ・・・」みたいな感じ。トリルだけに限らず、かなり高度のテクニックを要する難曲と言われていて、基本的にごく軽めの鍵盤楽器伴奏が付くだけで三楽章、約20分という演奏時間ですから、演奏する人はかなり緊張するんでしょうね。

マンゼは、1965年生まれのイギリス人。トレヴァー・ピノックの後釜としてイングリッシュ・コンソートを率いているので、古楽系が好きな人には馴染み深いバロック・ヴァイオリンのベテランです。

このCDのすごいところは、無伴奏というところ。聞く方は、すべてヴァイオリンの音だけに集中することになりますから、これはごまかしがきかないので相当の覚悟と自信があってできることだと思います。

現代女流奏者のトップに君臨するA.S.ムターの録音もありますが、弦楽オケの伴奏がついて主旋律中心の「わかりやすい」演奏になっています。マンゼは、主旋律に装飾音を追加して自分で同時に伴奏もしている雰囲気。オリジナルの指定がどうなっているのかわかりませんけど、その分難易度は格段と上がっている感じです。