2023年2月5日日曜日

N.Lahusen & R.Zubovas / Čiurlionis Complete Piano Works (1999-2008)

ヨーロッパ大陸の北部にはバルト海があり、外海の北海からの入口が大小の島々からなるデンマークです。北側はスカンジナビア半島で、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド。南側はドイツ、ポーランド、東のどん詰まりはロシアが囲んでいます。そして、ポーランドとドイツの間に挟まれた3つの国があり、バルト三国と呼びます。

バトル三国は、北からエストニア、ラトビア、リトアニアで、地政学的に不安定な緊張を強いられてきた歴史があります。音楽の世界では、現代で有名な作曲家アルヴォ・ペルト、指揮者ネーメ・ヤルヴィ、その子であるパーヴォ・ヤルヴィはエストニア出身。

リトアニア出身の作曲家で、知る人ぞ知るという存在が、ミカロユス・チュルリョーニス(1875~1911)です。普通のクラシック音楽愛好家は、たぶん手を出すことは無いくらいマイナー。

自分は以前にピアノ曲を漁っていた時に、たまたま知ってCDを買いましたが、興味深かったのは音楽ではなく絵画。音楽以上に有名なのが、300点ほど残されている何とも言えない不思議な景色・・・幻想的と一言で片づけられない、病的なものすら感じられる絵画です。リトアニア文化史の中では最重要人物なのですが、日本では1992年に初めて展覧会が開かれて紹介されました。

もともとロシアの影響下にあった時代に音楽家を目指し、ワルシャワ、ライプツィヒで学びましたが、20代なかばに美術学校に入りリトアニアの民族文化の保存に力を入れるようになります。しかし、徐々に精神異常が始まり療養所に収容され、36歳で短い生涯を終えました。

管弦楽曲、室内楽曲はそれぞれ数曲ありますが、残された楽曲のほとんどはピアノ独奏曲です。廉価版で何でもありで有名なNAXOSレーベルにもCDはありますが、自分が購入したのはCelestial Harmoniesという、アメリカの変わり種専門みたいなマイナー・レーベルの物。
1999年から2008年にかけて断続的に二人のピアニストによって網羅された、CD5枚からなる「ピアノ独奏曲全集」なんですが、今はAmazonではバラ売りしか見つかりません。

演奏者はCD3枚分がドイツのNikolaus Lahusen、残りがリトアニアのRokas Zubovasという人。いくつかアルバムを出しているようですが、情報量が少ないのであまりよくわかりません。

さて内容は・・・絵画と同じで何とも不思議な世界。はっきり言えば、たまにハッとするフレーズが無いわけではないのですが、それほど名曲として人に推奨するような物ではないという印象。全部で184トラックが収録されていますが、いずれも2分程度で短く、習作の域を脱するものはごくわずかだと思います。

いきなり、対位法でまるでJ.S.バッハのようなフーガで始まりますが、続くのがプレリュード、マズルカ、ノクターン、ワルツと来るのでショパンを意識している感じ。少なくともスラブ系の曲調はほとんど無さそう。

そうかと思うと、おそらく後年の作品は無調だったり、不協和音が入ってきたり、いかにも時代の音楽風になって来るのですがどれもが単調。唯一の大曲と言えるのが4楽章からなるピアノ・ソナタ。これも、ほぼショパン風と言えそう。一部の現代音楽風のものを除けば、耳障りは無い。まぁ、普通にBGMとして流しておくのには差支えはなさそうです。

さんざん文句ばかり言っているようですが、当然ながら一定水準以上、少なくとも他人が弾いてみようと思える物であることは間違いないし、こうやって実演してみるだけの価値はある音楽だろうと思います。ただ、普通の愛好家は知らなくても何も問題はありません。