毎年恒例の正月番組で、大変高価な楽器の音色を聴き分けるというのがありますが、そこに登場するヴァイオリンと言えば、ストラディバリウス(安くて2億円、高いと10数億円)。
17~18世紀にイタリアで作られた、現在でも最高の音を出すヴァイオリンとして有名です。作ったのは、アントニオ・ストラディバリ、そしてその息子であるフランチェスコ、オモボノの三人。
チェロ、ヴィオラなどもわずかに現存していますが、圧倒的に多いのはヴァイオリン。全部で1,200挺弱が制作されましたが、J.S.バッハとだいたい同じ時代である300年ほど前のものですから、現存するのは世界中でその半分の600弱と言われています。
これらのヴァイオリンは、バロック・ヴァイオリンと呼ばれ、それだけなら古楽器と呼ばれるものですが、通常のモダン奏法の演奏者も当然使用していて、たいていはモダンの標準であるスティール弦を使用していのすが、古楽器奏法を行なう奏者は一般にガット弦を用います。
古楽器(ピリオド)奏法で有名なヴァイオリン奏者としては何人かが有名ですが、イザベル・ファウストもその一人。1972年生まれのドイツ人ですが、名前が知られるようになったのはフランスでの活躍からでした。
愛器は1704年に制作されたストラディバリウス(愛称はスリーピング・ビューティ)で、ヴァイオリン奏者の聖典とも呼べるJ.S.バッハの独奏ヴァイオリンのための「Sonatas & Partitas」全6曲の演奏は、この曲におけるピリオド奏法による頂点を極めた作品と評価されています。
何しろ、バッハが得意とした対位法(違う複数のメロディが同時に進行する)による独奏という高難易度の曲集ですから、モダン楽器と比べて響きが少なくなりやすい古楽器での演奏はより難しいと言われています。
もっとも、本来バッハが耳で聞いた音を出すわけですから、そういう音楽のつもりで作ったはずで、ファウスト自身も「これを一般聴衆に聞かせるために作った」かは疑問があると言っています。
ソナタは声楽曲に対する器楽曲という意味で、後に一定の形式にのっとったものをソナタ形式と呼ぶようになります。パルティータは組曲ということ。バッハのこれらの曲集では、それぞれが数分の短い楽章が組み合わされて一つになっているもの。全部で31楽章で、演奏時間はだいたい2時間ちょっと。さすがに一度のコンサートで、一気に演奏するには無理がありそうです。
でも、我々一般人は時間の許す限り、ゆったりと自由な格好で好きなだけ聴き続けることができる。まぁ、何と幸せな時代であることか。