2023年2月14日火曜日

John Eliot Gardiner / Santiago a capella (2004)

クラシック音楽の聴き方としては、実は3種類あると思うんですよね。

まず、楽器の演奏者として、あるいは指揮者としてどのように曲を作り上げるかという・・まぁ、楽しみというよりは責任を伴う勉強みたいなものが一つ目。


自分のような一般人は、作曲者を中心に聴くか、または演奏者を中心に聴くかの二択が残されています。どちらかだけというのは、かなり難しいので、実際はどちらも混在して楽しむのが現実的。

例えば、ベートーヴェンを制覇しようとして、交響曲から協奏曲、室内楽、独奏楽器と幅を広げていくわけですが、そうなるといつの間にか違う演奏者のものと聴き比べたくなってくる。

クラシックなんて楽譜通りに演奏するんだから誰がやっても同じ、と昔の自分は思っていましたはこれが間違い。独奏はもとより、オーケストラでも指揮者の考え方によって、けっこう同じ曲でも聴いた印象は変わってくるものです。

そうこうしていると、気に入った演奏家というのが見つかって来るもので、今度はその演奏家のいろいろなものを聴きたくなってくるのは当然ということになります。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を出したピアニストは一体何人いるんでしょうか。ちょっと考えれば、名演と呼ばれるものだけでも軽く20人くらいは挙げられますが、今でも毎年数セットは増えているように思いますので、100じゃきかないかもしれません。

それはそれとして、ジョン・エリオット・ガーディナーは大好きな指揮者。自分にとってはオーケストラの面白さを再認識させてくれた恩人みたいな人ですが、本来はバロック初期の偉人、モンテヴェルディの「聖母マリアの夕べの祈り」を歌いたくて、モンテヴェルディ合唱団を結成したのが始まり。

だったら、伴奏も自前でしようというわけで、古楽系の草分けであるEnglish Baloque Soloistsを結成。さらにベルリオーズの「幻想交響曲」を演奏したくてOrchestre Révolutionnaire et Romantiquemも結成しました。バロックから古典、さらにロマン派にまでレパートリーを延ばしてくれたおかげで、ガーディナーのCDを追っかけていると、驚くほど多種多様な音楽を聴くことができます。

2000年に1年かけてJ.S.バッハの教会カンタータ、約200曲を教会暦に沿って演奏し続けるという大偉業を達成し、従来の仕事に一区切りつけたガーディナーと手兵のモンテヴェルディ合唱団のメンバーは、キリスト教の巡礼の旅に出発しました。

敬虔なキリスト教徒は、フランスをスタートしてスペインの聖地サンチャゴ・デ・コンポステラへと巡礼する伝統があるそうです。日本で言えば四国八十八か所のお遍路さんみたいと思えばわかりやすい。

彼らは、途中で立ち寄った教会や修道院で、16~17世紀の多くの古いメロディを収集しました。それらをまとめたア・カペラのアルバムがこれ。もう一枚、「Pilgrimage to Santiago (2005)」というアルバムもあり、巡礼の旅の成果がこの2枚に凝縮しています。

古い宗教曲というとグレゴリオ聖歌のような単旋律のお経みたいなものを想像しがちですが、ここに収められた曲はいずれもカラフルで、美しい物ばかりです。宗教という型にはめ込まれていない、民衆のための本来の音楽の原点のようなものなのかもしれません。

心が現れるような清らかさがあり、最近の言葉で言えば「究極の癒し」の音楽とでも言えそうです。珈琲をゆっくりすすりながら、静かに気持ちを落ち着けるひと時にぴったりの音楽だと思います。