2023年2月19日日曜日

J.E.Gardiner / Beethoven Symphony No.9 (1992)

しばしば出てくるモダン楽器、ピリオド楽器(古楽器)という言葉。


そもそも、何がそんなに違うのかという話なんですが、演奏する側と聴衆側の要望によって楽器は変化してきたということ。

その前にクラシック音楽での時代区分をおさらい。9世紀頃にグレゴリオ聖歌という単旋律の音楽が普及し、多声、和音が使われて教会を中心に発展。15~16世紀になって、芸術的価値観が付加されたルネッサンス音楽が誕生します。

以後、モンテヴェルディから始まる17世紀~18世紀初めの音楽が「バロック」、ハイドンから始まる18世紀の音楽が「古典派」、シューベルトあたりからの19世紀の音楽が「ロマン派」と呼ばれます。20世紀はロマン派を残しつつも、印象主義音楽も混ざり、近代音楽、そして現代音楽とつながっているというのがおおまかな説明。

さて、その中で演奏者は、より新しい表現方法を模索してきたわけです。例えば、ベートーヴェンのピアノ・ソナタで言えば、最初の頃の比べると後年の物はより高い音・低い音を使っています。楽器の進歩により鍵盤の数が増えたというのもあるし、逆に作曲者側からもっと増やしてほしいというリクエストもあったことでしょう。

ヴァイオリンについても、もっと早く、より多くの音を弾きこなせるように、長く細くなってきました。これは特に曲芸的な超技巧を誇ったパガニーニの登場が大きく関与しています。また使用する弦もガット弦(羊または牛の腸を利用)だったものが、より丈夫で強く弾きやすいスティール弦に変わりました。弓の形状も変化してきています。

一方、もともとの儀式用教会音楽を、娯楽用に一般化したのは貴族たちです。宮殿の中で演奏者と貴族たちの距離は近いので、音の大きさはそれほど必要ありませんでした。しかし、歌劇の普及と共に一般民衆が多数集まる場所での演奏機会が増えるにつれ、より大音量が必要とされ、より響きの良い大きな音量が出せる必要が出てきます。当然、演奏者の人数(楽器の数)を増やすことも求められてきました。

ですから、現代のモダン楽器による大人数のオーケストラの演奏でのバロックあるいは古典派の音楽の演奏は、当時の作曲者らが意図した音楽とはだいぶかけはなれたものとなっているわけです。そこで、それぞれの時代に応じた楽器と編成で演奏しようというのが、古楽演奏として80年代以降定着してきたのです。

ですから、昭和の評論家たちはカラヤン指揮ベルリンフィルのJ.S.バッハの演奏が最高で、それに比べて古楽演奏家たちのものはしみったれた音楽かのように否定し受容できませんでした。本来の作曲者の意図した音楽と現代における解釈による音楽とでは、時代が古いほど乖離したものだという認識を持って両者を楽しむ姿勢が大事です。

・・・と、まぁ、ずいぶんと上から偉そうな話をしてますが、自分はもともとカラヤンとかは大袈裟な印象で好きになれなかったので、ピアノ独奏とか室内楽が好きなクラシック愛好家だったのですが、J.E.ガーディナーの古楽奏法によるベートーヴェンの交響曲で初めてオーケストラの楽しさを知りました。

響きが少なめの古楽器では、長く音を伸ばすのが不得意ですから、一般的早目の演奏になります。重々しい重戦車のようなカラヤンの演奏(第9は約70分)に比べて、ガーディナーは軽やかで爽快(なんと60分)。ベートーヴェンだって、そんなにいつでも苦虫嚙み潰したみたいな哲学者然としていたはずもないので、ガーディナーの演奏の方がより説得力を感じます。

まぁ、カラヤンを目の仇にしているようですが(実際今でも好きじゃない)、基本的に好き嫌いは個人の自由ですから、カラヤンの好きな方はそれはそれで良いと思います。音を楽しむのが音楽ですから、聴いて気に入ればいいだけの話。自分は今後も、できるだけオリジナルに近い形での音楽を聴きたいと思います。