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2023年7月25日火曜日

アイガー北壁 (2008)

登山家が目指す山々はいろいろありますが、スイスのアイガーもその一つ。標高は3970mですが、有名にしたのはその北側の切り立つ1800mの断崖絶壁です。雪と氷に覆われた北壁の登攀は困難を極め、1934年以来多くの挑戦を拒み、多くの死者を出しています。近年は、登山道具の進歩もあり、3時間以内での登攀成功者も出現していますが、戦前は半日以上かかるのが当たり前と考えられていました。

アイガーの山中には、20世紀初頭に建設されたユングフラウ鉄道のトンネルが貫通しています。トンネルの途中、アイガーヴァント駅では絶壁の中ほどに位置した展望所が設けられています。また、トンネル内の掘削した土砂を捨てるための横坑道が壁面に開通しています。またアイガーの特殊なところは、麓の村から北壁全体が一望にできるところで、登山者がいるとホテルは見物客で溢れかえるのです。

この映画は、1936年に実際に起こった悲劇をもとに作られたドイツ映画です。監督はフィリップ・シュテルツルという人で、詳細は不明。しかし、山岳映画としては、登山をする人だけでなく映画好きにも大変高い評価を受けています。

1934年、ベックとレーヴィンガーが初挑戦で、二人とも滑落死。1935年、メーリンガーとゼドゥルマイヤーが凍死。そして、ヒットラー率いるナチス・ドイツは国威高揚のため1936年のベルリン・オリンピックで、北壁初登頂成功者に金メダルを送ることにします。

1936年7月、ドイツのトニー・クルツ(ベンノ・フユルマン)とアンドレアス、ヒンターシュトイサー(フロリアン・ルーカス)、そしてオーストリアのエドゥアルド・ライナー(ゲオルク・フリードリヒ)、ヴィリー・アンゲラー(ジーモン・シュヴァルツ)は、それぞれ麓の町で登攀準備を開始します。トニーとアンドレアスとは幼馴染のルイーゼ・フェルトナー(ヨハンナ・ヴォカレク)は新聞記者として、その場に取材に訪れていました。

7月18日未明、これまでの登山の記録を詳細に書き溜めたノートをルイーゼに託し、トニーとアンドレアスは月明かりを頼りに登攀を開始しました。気がついたオーストリア隊の二人も後を追いかけます。しかし、間隔をあけていなかったオーストリアのヴィリーは落石で負傷してしまいました。

半ばを過ぎた頃には日が暮れ、彼らはビバーク(野営)します。翌朝、再び登攀を再開しますがガスが深く視界は不良。麓からも、彼らを確認することはできません。途中から協力して登攀していた4人でしたが、ケガの影響でヴィリーは次第に動けなくなり3300m地点で再びビバークせざるを得なくなります。

そして、彼らは登攀を断念し下山を開始しますが、天候が悪化し、動けないヴィリーを連れての下山ははかどるはずもなく、3100m地点で3回目のビバーク。そして7月21日、一向に回復しない吹雪の中、彼らを落石まじりの雪崩が襲い、エドゥアルドは即死、アンドレアスとヴィリーは宙づりになってしまいます。そして、アンドレアスはトニーを助けるために自らザイルを切りヴィリー共々落ちて行ってしまうのでした。

もちろん、結末はすでに史実としてはっきりしていて、アイガー登攀史上最悪の悲劇として名を残しています。北壁からの初登頂は1938年に成功したというテキストが表示されて、映画はエンドロールとなります。

ハッピーエンドではなく、重苦しい余韻を残しますが、危険を承知で山に挑戦する人々をダイレクトに表現していて、何か圧倒的な熱量を感じることが出来る映画です。

21世紀のドイツの映画は、過去の失敗を正当化したり華美な脚色することなく、しっかり事実を伝えようとする姿勢があるように思いますし、この映画もそのような作品と言えそうです。