2023年7月26日水曜日

アイガー・サンクション (1975)

アイガー北壁を舞台にした、クリント・イーストウッドのスパイ・アクション映画。最近レヴューしていますが、アイガーについてちょっと知識を仕入れたので再度登場。

もともとは、イーストウッドの「師匠」であるドン・シーゲルに監督を依頼したものの断られ、イーストウッドが自ら監督することになったらしい。サンクション(sanction)は「制裁」という意味で、ここでは「殺し」のこと。

美術を教える大学教授、ジョナサン・ヘムロック(クリント・イーストウッド)は、かつてアメリカの諜報機関の殺し屋として働いていました。チューリッヒで、旧友のアンリが敵から殺されマイクロ・フィルムを奪われたため、ボスは再びヘムロックを担ぎ出すため美人のジェマイマ(ヴォネッタ・マギー)を使い罠にかけます。

アンリを殺害した相手は、アイガー北壁登山チームの中にいるらしいことはわかっていますが、誰なのかは特定できないでいました。これまでに2度北壁に挑戦し失敗しているヘムロックは、昔の登山仲間、ベン・ボウマン(ジョージ・ケネディ)の再開し登山のための訓練を依頼します。

北壁登攀チームは、隊長を志願する自信家のフレイタッグ(ライナー・ショーン)、山の事しか頭にないアンドレ・マイヤー(マイケル・グリム)、そして若い妻の気を惹くために登山を続けるジャン=ポール・モンテーニュ(ジャン=ピエール・ベルナルド)、そしてベンも基地の世話役として現地に入ります。

北壁登攀は順調に進んでいるように見え、ヘムロックも3人との会話から手がかりを探ろうとします。麓のホテルではジェマイマも見守っていましたが、ボスの連絡係からこの作戦が偽物であることを知らされます。ボスは偽の情報を敵に渡すため、アンリを殺されるように仕向け、情報が本物だと信じさせるためにヘムロックに架空の犯人を追わせていたのでした。

先に上ることしか頭にないフレイタッグの足元から、岩が崩れ落石が発生。運悪くモンテーニュを直撃し、モンテーニュは死亡します。こうなると登攀を中止するしかなく、経験があるヘムロックが呆然とするだけのフレイタッグに代わって指揮を執ることになりました。

しかし、天候が急速に悪化し、岩壁が氷に覆われ下山も難航。マイヤーが滑落し、ザイルに引っ張られてモンテーニュの遺体とフレイタッグも滑落していくのでした。ヘムロックも落ちますが、かろうじて寸前に打ち込んだピトンにかけたザイルによって宙吊りとなってしまいます。

最初に見たのはテレビの洋画劇場で、10代の頃。登山の様子を麓のホテルから望遠鏡で見れるというのが何か不可解でした。さらに、登山鉄道の坑道の開いたところにイーストウッドがぶら下がっているというのも、難攻不落の山に挑むという雰囲気にそぐわない感じがして不思議でした。

しかし、アイガーという山の特徴を調べてみると、なるほどと納得です。普通は登山家は登攀途中を仲間以外に見られることはないわけで、あくまでも登頂は自分のため。ところが、アイガー北壁は、困難が伴うだけでなく、ずっと第三者に見られているという「劇場型」の登山というところが特異的だということ。

この映画の北壁挑戦は、1936年の北壁での悲劇をかなり参考にしていることに気がつきました。上るのが4人で、一人が落石で怪我をして動けなくなる。3人が滑落し、1人がロープで宙吊りになってしまう。そして坑道から救助しようとするなど、まさに史実をなぞるかのようです。

この映画では、当然CGが使われる時代よりも前ですから、クライミング・シーンは俳優が実際に行っています。しかも、イーストウッドの顔が識別できない部分はわずかで、おそらくほぼ全てを自らやっていると思われます。ほとんどが、実際のアイガーで撮影されたということで、相当大変なことになったようです。

ただし、映画としては諜報機関の設定もこども騙しみたいな嘘っぽいところがあるし、あらすじに紹介しませんでしたが、旧敵メロー(ジャック・キャシディ)との絡みも何だか意味不明みたいなところがあって、どうも脚本がこなれているとは言い難いところがあります。どやら原作者が脚本チームに入っているので、そこに問題があるのかもしれません。

前半がベンのもとでのトレーニング、後半がアイガー北壁挑戦とはっきり分割されますが、スパイ・アクションとしては、パーティに敵がいてこそスリルが生まれるのに、映画を見ている側にはあっさりと敵が混ざっていないことをばらしてしまうので、単なる登山映画になってしまったのは残念。

イーストウッドの熱烈なファン(自分みたいな)には、それなりに見所があるし、この映画しか見られないイーストウッドを楽しめるというところですが、普通の映画好きにはあまりお勧めできないかもしれません。